作者名:筒井 康隆 新潮文庫
夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが…。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か?アリバイを持たぬ者は?動機は?推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う。前人未到のメタ・ミステリー。
筒井作品は、ミステリでも個性爆発!
どことなく漂うおかしな空気を楽しめる、美しくもおぞましい作品です。
よくある設定だけど何かが…?度:★★★★
主人公で語り手の青年・浜口は人気画家で、
映画やエッセイにも多彩な才能を見せます。
しかし彼は、8歳のころ、従兄弟の過失で両足に大けがをしてしまい、
下半身の成長が止まってしまうという悲劇に見舞われていました。
それ以降は、怪我をさせてしまった従兄弟が常に彼を支え、
2人は良好な関係を保ったまま、28歳となった現在でも、
ずっと一緒に行動しています。
もともと2人の親の持ち物だった瀟洒な別荘は、事業の失敗で手放され、
現在は知り合いの木内氏が所有しており、バカンスに招待され赴くことに。
別荘には、木内氏の娘と友人の、3人の美しい令嬢も滞在していました。
この個性バラバラな3人、才能豊かな浜口青年に、みんな気があるようで…。
木内氏はロートレックの絵画が大好きで、
別荘にはたくさんの絵が飾られており、
この美しい別荘で、集まった美女が殺されるという、「いかにも」な設定のミステリ。
でもそこは筒井さんですから、一筋縄ではいかないのです!
色々なミステリを読んだ人は、注意深く注意深く読んでいけば、
何かに気が付けるかも…?
好き嫌いは分かれるかも度:★★★★★
正統派ミステリ!という感じではない作品なので、
好き嫌いは分かれるかもしれません。
不穏になっていく状況や、たまに挿入される怪しい魅力の絵画を眺めながら、
クライマックスを楽しみ、あ~なるほどね~となる作品。
230ページに満たない短い作品なので(その割に犠牲者多いな…)、
答え合わせパートの後、2回目を楽しむのもよしです。
ロートレックの絵画も楽しめますし。
私は、美術の教科書に載っているポスター作品を見て、
正直そんなに好みじゃないな~と思っていたんですけど、
全然タッチの違う油彩のカンヴァス作品とかも載せられていて、
あ、これは結構好きかも!なんて、楽しみながら読んでしまいました(笑)
9枚の絵画が挿入されているので、好みの作品を探しても面白いかも。
独特な雰囲気度:★★★
魅力的な令嬢、悩みを抱える青年、
有名絵画に彩られた美しい屋敷で起きる殺人事件…。
こういった要素に惹かれる人に、おすすめ。
少しだけ昔の日本の雰囲気と、耽美で優雅な状況と絵画の魅力が合わさって、
何とも言えない、独特な空気を持つ作品になっています。
筒井作品は、そんなにたくさんは読んでいないのですが、
「パプリカ」の夢と現実が入り混じる、幻想的かつエンタメ色が強い世界観や、
「旅のラゴス」のハラハラする冒険と、壮大で感動する展開、
短編の、おおっとなるコミカルな魅力とも違っていて、
こういう作品もいいなぁ…と思いました。
犯人の動機が当てられたらすごい!
SF筒井作品ファンの方、ミステリも楽しんでみてはいかかでしょう。