作者名:芦部 拓 光文社文庫
「また買ってしまった」。何かに導かれたかのように古書店に入り、毎回、本を手にして店を出てしまう「私」。その古書との出会いによって「私」は目眩く悪夢へと引きずり込まれ、現実と虚構を行き来しながら、背筋を寒からしめる奇妙な体験をしていく……。古書蒐集に憑かれた人間の淫靡な愉悦と悲哀と業に迫り、幻想怪奇の魅力を横溢させた、全6編の悪魔的連作短編集!
6編すべてに、驚きの結末が待っている…。
本好きにはたまらない、悪魔的な魅力!
古書と怪奇への愛を感じる度:★★★★★
文筆業についている‟私”が古書店で、ある本を‟また買ってしまった”ことから始まる、
6つの奇妙な物語です。
今はもうない、昔の西洋建築の立派な精神病院の、
詳細な紹介が載った「帝都脳病院入院案内」。
手に入れた‟私”は魅了され、病院のジオラマを手作りするのですが、
次第におかしなものが見え始め…。
名もなき三流作家の、荒唐無稽で悪趣味な、
エログロナンセンスともいえる探偵物語「這い寄る影」。
苦笑いをしながら読むような小説なのに、なぜか‟私”は気になってしょうがない。そして…。
謎を残して終わってしまった、
探偵少年の活躍を描く漫画「こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻」。
昔好きだった漫画。ところどころおかしなところがあって、調べ始めた‟私”。
そして、彼がとった行動と、意外過ぎる真実に驚愕!
幻に終わった、映画の企画「青髭城殺人事件 映画化関係綴」。
ある少女を目撃したことにより、
一気に恐怖へと突き落とされた男が迎える結末とは?
ある人物の人生が描かれた大河ロマン「時の劇場・前後篇」。
‟私”はその本を手にしてしまったために、
どうしても行動を起こさなくてはならない羽目に。
古書店主の自費出版物と思われる謎の本「奇譚を売る店」。
古書を愛する人間の、狂おしい執念が恐ろしい!いままでのシメとなる話。
以上、6つの古書の内容と、それぞれの本に出会った人が遭遇する、
現実とは思えない出来事が描かれています。
物語の展開も、もちろん面白いのですが、
登場する古書が、すべて掘り出し物というわけでもないのに、
何だかとっても読みたくなってしまう…!
読んではいけないものを読んでみたいような、不思議な魅力がありました。
悪夢の展開は予想できない!度:★★★★★
古書に出会った人間が迷い込むのは、悪夢的な不可思議極まりない世界。
その幻想怪奇が入り混じった物語の展開は、まるで予想できません。
個人的に、特に好きなのは「帝都脳病院」と「こちらX探偵局」です。
「帝都脳病院」は、美しい病院と壮絶な治療内容の対比に引き込まれ、
ラスト1ページで意外な結末。
「こちらX探偵局」では、予想外…というか斬新なラストに、唖然としました。
「這い寄る影」には、暗い笑いと恐ろしさがあり、
「青髭城殺人事件」では、ミステリと怪奇が絡み合い、
「時の劇場」は、世にも奇妙な物語みたいな感じがあります。
そして、「奇譚を売る店」で、この作品の真実の姿が!
あと、各話表紙イラストが素敵です。
奇々怪々な雰囲気にピッタリ合っていて、世界観にマッチしすぎ!
たまに読みたくなる中毒性度:★★★
文筆業に携わり、古書店でつい衝動買いをしては後悔する…そんな男性が、
だんだん本にはまり込んでいき、気が付けば日常を逸脱している…。
「たまたま手にした本から始まる物語」には、
もともとすごく惹かれるタイプなんですけど、
この作品に待っているのは、ワクワクするファンタジーではなく、めくるめく悪夢の世界。
これが、何だか癖になってしまい、何回か読み返しています。
好きな人は、とことん好きになっちゃう作品かも。
推理作家が描く、古書怪異譚!
妖しい世界から、帰ってこれないかも…?