作者名:サラ・ウォーターズ 創元推理文庫
(イラスト:松浦だるま)
独房からは信じがたい静寂が漂ってきた。獄内の静けさを残らず集めたより深い静謐が。それを破ったのは溜息。わたしは思わず、中を覗いた。娘は眼を閉じ…祈っている!指の間には、鮮やかな紫―うなだれた菫の花。1874年秋、倫敦の監獄を慰問に訪れた上流婦人が、不思議な女囚と出逢う。娘は霊媒。幾多の謎をはらむ物語は魔術的な筆さばきで、読む者をいずこへ連れ去るのか?サマセット・モーム賞受賞。
眩暈が起きるような、甘美で魔術的な魅力。それに酔っていたら…
まさか、こんな結末が待っていようとは!
騙された衝撃度:★★★★★
主人公の令嬢・マーガレットは、30歳間近で、社交が苦手な、内向的で神経質な女性です。
弟はすでに結婚し子どもをもうけ、
妹はもうすぐ結婚、夫とともに新しい土地で生活する予定。
大好きだった父は亡くなり、嫁に行かない娘に失望する母とともに、
屋敷に引きこもりがちに暮らしています。
そんな彼女が、ひょんなことから、「監獄を訪問して女囚を慰問する」活動をすることに。
最初はおっかなびっくりのマーガレットですが、ある若く美しい女囚・シライナと出会い、
家にいたくないこともあり、そのまま慰安を続けます。
ところがこの、悩める令嬢と、霊媒として有名だった女囚の邂逅が、とんでもない事態を招くことに…!
紹介文を読んでも、いまいちどういう話かぴんと来ず、
でも、賞を受賞している有名な作品だし…と思い、読んでみたら。
読んだ直後、呆然。
だ、騙された!完璧に騙された!
最初からどういう話か、実は全然分かっていなかったことを痛感。
色々な意味で、衝撃作でしたね~。
すごく感情移入する人は、要注意かも…。
恐ろしさと美しさと…度:★★★★
マーガレットの目線で物語は語られ、途中に投獄される前のシライナのエピソードが挿入されます。
訪問する者の目線から明らかにされる、監獄の実態は悲惨で恐ろしく生々しい!
はっきり言って、実際こうだったんだろうというリアルさで、
ホラー小説とは違う恐ろしさがありました…。
かといって、令嬢であるマーガレットの普段の生活はどうかというと、
優雅ではありますが、彼女の気質と微妙な立場もあって、
こっちも重苦しい空気に満ちています。
そんな作品な中で、ひときわ輝くのが、
マーガレットとシライナが、徐々に心を通わせていく様子。
後半、2人がお互いに本心を明らかにするシーンでは、
陰惨な監獄での、絶望的な状況だからこそ、印象に残る美しさが…!
ウォーターズ作品によくみられる、女性同士のロマンスがありますが、
ゴシックホラーミステリとして面白いので、苦手な人も、良かったら読んでみてください。
ちなみに、見出しの表紙は、いろんな漫画家さんが表紙イラストを描いたときに出されたもの。
もともとは、精緻なヨーロッパ絵画のような表紙なんですけど、
個人的に、こっちもイメージぴったり!
伏線が隠された、魅惑の文章度:★★★
一読して結末に呆然…あららと思いながら再読。
読み返してみたら、ああ、なるほどありました伏線が。
1回目とは違った読み方ができるので、2回読んでみるのもおすすめです。
教養はあるのに変わり者ゆえに、居場所がなくなっていく女性。
やむにやまれぬ事情で投獄され、劣悪な環境で弱っていく女囚たち。
女性に多様な生き方が許されない時代の、真に迫った描写は秀逸で、
死んだ者たちの存在を匂わせる妖しい雰囲気と相まって、引き込まれてしまいます。
色々な意味で、翻弄される作品でした!
何も考えず、この謎に満ちた、おぞましく美しい作品を堪能してみては?