作者名:湊 かなえ 双葉文庫
親友の自殺を目撃したことがあるという転校生の告白を、ある種の自慢のように感じた由紀は、自分なら死体ではなく、人が死ぬ瞬間を見てみたいと思った。自殺を考えたことのある敦子は、死体を見たら死を悟ることができ、強い自分になれるのではないかと考える。ふたりとも相手には告げずに、それぞれ老人ホームと小児科病棟へボランティアに行く──死の瞬間に立ち合うために。高校2年の少女たちの衝撃的な夏休みを描く長編ミステリー。
傷を抱えた、2人の少女は、思い思いの行動にでる。
「告白」もすごかったけれど、こちらも、なかなか…。
思いがけない読後感を残す、衝撃的な作品!
少女のリアル描写度:★★★
主人公の少女・敦子と由紀は、小さいころからの親友同士ですが、
最近はお互いの事情ゆえに、距離を感じてしまっています。
そんなとき、最近仲良くなった転入生の紫織に聞かされた、親友の死の話。
それは実際に自分が、自殺の現場を見つけてしまったという、衝撃的な体験。
しかしそれを語る彼女は、辛そうだけれど、何だか悲劇的な優越感に浸っているように、
由紀には感じられるのでした。
家庭で辛いことがあった由紀は、自己陶酔に浸っているような発言に強い反発を抱き、
死を知るために、誰かが死ぬ瞬間を見たいと考えるように。
部活で挫折を味わい、性格が少し変わってしまった敦子は、死の話に反応した由紀を見て、
死について知りたい、と思うようになります。
こうして、傷を抱えた少女2人は、あわよくば死を目撃しようとボランティア活動をすることに。
由紀は、小児科のボランティアで、2人の少年と親しくなり、
敦子は、老人ホームで、ある男性と知り合います。
この出会いが、のちのちとんでもない事態を招くことに。
2人の語りが、交互に進んでいくほどに、
彼女たちの、‟本当の顔”が見えてきて…。
少女の、心理描写がリアルで、ぐいぐい物語に引き込まれます。
最初は、鬱々とひねくれた視点で語られ、どんどん不安になるのですが、
終章で、こんな気分になるなんて!
騙される仕掛け度:★★★★
不安定な青春を描いた作品ですが、ミステリとしても面白いです。
最初の仕掛けしかり、登場人物の意外な繋がりしかり…。
う~ん、やられた!という感じ。あれは伏線だったのね…!
映画化された「告白」は、衝撃的な作品でしたが、
本作も、「ああ、告白の作者の作品だなぁ。」と思うくらいのインパクトがありました。
騙された!で油断していたら、さらに…!
ボリューム的には、「告白」と同じくらいで、そんなに長くないんですけど、
まぁ、相変わらず、内容の凝縮がすごいこと!心に残る物語でした。
息苦しくって、不穏さにハラハラして、現実の残酷さに圧倒されつつも、
読むのが止まらず、最後は意外な感覚に迎えられる…そんな作品。
「望郷」「リバース」「Nのために」などなど、つぎつぎ作品を発表している湊さんですが、
私は「告白」から入ったせいか、思春期の登場人物の描写がすごいイメージが強く、
この「少女」を呼んだときは、‟きたきた、若さゆえのこの息苦しさと暴走感きた~”
とか思ってしまいました(笑)
女の子ってすごい生き物度:★★★★★
2人の少女の、いろいろな一面が出てきます。
冷静な由紀と、素直な敦子は、まるでタイプの違う女の子ですが、
その心の傷と不安定さは、2人とも共通で、やはりどこか似た者同士に思えます。
傷つきやすく、不安定で、正直になれず、弱みを他人に見せられなくて、
でも本人たちなりに、真剣に頑張っていて…。
…と思っていたら、お、女の子ってタフだな!
と、思わず笑いつつも、ちょっと怖いかもなんて考えてしまうシーンも。
一筋縄ではいかない存在を描いた、異色の青春小説でした。
因果応報の恐ろしさ!
意外な結末と読後感を、楽しめる作品です。