作者名:デイヴィッド・ベニオフ ハヤカワ文庫NV
「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父レフの戦時中の体験を取材していた。ナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた十七歳のレフは、軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された。饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索を始めることになるが、飢餓のさなか、一体どこに卵が?逆境に抗って逞しく生きる若者達の友情と冒険を描く、傑作長篇。
若者の軽快なやり取りと、悲惨な状況が、途切れることなく綴られていく物語。
極限状態での奇妙な冒険を描いた、まぎれもない傑作長編です!
意外な目的度:★★★
著者本人らしき作家デイヴィッドは、自伝的なエッセイの執筆を依頼されましたが、
自分のこととなると、平穏な人生で書くことが思い浮かびません。
そこで、ロシアから移住した祖父の、
第2次世界大戦中のレニングラードについての詳しい話を聞き、
それについて書きたい!と考えます。
と、いうのも、ナイフの使い手だった祖父は、
18歳になる前にドイツ人を2人殺している…という話を聞いたことがあったから。
こうして、孫に対する語りとして、戦時中の変わった冒険の物語が始まるのです。
17歳でレニングラードの集合住宅に住んでいた祖父レフは、小柄でやせっぽちの少年。
ある日、ドイツ兵の死体が降ってきて、
思わず兵士のナイフを盗ってしまったのが運の尽き。
あっという間に捕まって、脱走兵として同じく逮捕された、
ハンサムな青年コーリャと知り合います。
通常ならこのまま銃殺刑の2人でしたが、大佐から何ともおかしなことを言われ混乱。
それは、「娘の結婚式のケーキに使う卵1ダースを、泥棒らしく見つけてきたら許してやる」
という内容でした。
ドイツに追い詰められ、住民がどんどん餓死している状況で、
何じゃそりゃ?という任務を受けてしまった2人は、
助かるために、何とか卵を見つけようと決意。
こうして、レフの忘れられない1週間が始まったのでした。
若者2人の掛け合いが、下ネタ多めで(ほぼコーリャのせい)コミカルですが、
戦争の悲惨な描写は、途切れることなく出てきます。
そんな中で、「卵を見つけてくるための冒険」という、
それだけは可愛いと言えなくもない設定が、
残酷で重たい物語を、一部ユーモラスにしており、
一味違った戦争小説になっているかと。
容赦なき戦争描写度:★★★★★
繊細で不器用で、やや幼い部分があるレフと、
女好きで軽率だけれど、教養があり人を惹き付ける魅力に満ちたコーリャ。
この2人が、最初は少し反発し合いながらも、行動を共にするうえで友情を育んでく。
この部分は、青春冒険小説!という感じで、
思わず笑ってしまう会話も多いのですが…。
その2人を取り巻く状況の、凄惨さがすさまじい!
まずは市街地で、卵を捜索する2人ですが、
都市部でもとんでもない事態を目撃しまくります。
みんなが飢えてて悲惨だなぁ、と思いながら読んでいたら、
いかに読者の考えが甘いかを突き付けてくるような、
ひ~っ!となる、恐怖の事態の数々が、それはもう容赦なく(汗)
戦争怖い戦争怖い…。
身近に卵はないと分かった2人は、市外の危険地帯へ進むのですが、
こちらは更にひどい!
クライマックスまでひたすら、恐ろしい戦争の描写は止まりません。
それでも、レフの語りとコーリャの軽口と、非日常すぎる事態に引き込まれて、
グイグイ読んでしまいます。
そして、緊迫のクライマックスと、演出が憎い最後の一文へと…。
コーニャの魅力度:★★★★
かなり残酷な描写もある、恐ろしい戦争小説なのですが、
2人の青年の魅力で、読み続けてしまいます。
特に、頭はいいし人を惹き付けるけれど、
自分で自分をピンチに追い込む男・コーリャが大事な存在!
いかなる状況においても、下ネタとジョークを忘れず、
重い戦時中の小説でありながら、定期的に読者を笑わせるという稀有な人物です。
ただ軽いだけじゃなくて、繊細で優しい部分を見せたり、
義憤にかられるシーンもあり…。
本当に普通の少年で、それゆえに読者が思わず感情移入してしまうレフとは、
別の魅力に満ちています。
読んでいるうちに、レフとコーリャのコンビが好きになり、
彼らの今後が心配で余計ハラハラする…そんな作品でした。
読後、平和と満腹のありがたさを噛みしめながら、
2人の青年の運命に思いをはせてしまいます。
忘れがたい余韻を残す、青春・恋愛・戦争・冒険小説!