作者名:田辺 青蛙(たなべ せいあ) 徳間文庫
小さい刻の愉しい記憶をもう一度味わうために、私は誰もいない寺に帰ってきた。私が池で見つけたのは、真っ白な自称人魚の男『うお太郎』。人魚にも見えないが、人間とも思えない不思議な生物だった。うお太郎は「この寺の周辺には奇妙な石が埋っており、私にはそれを見つける力がある。石には記憶を忘れさせたり、幽霊を閉じ込めたりする力が宿っている。早く見つけろ」と言うのだが……。書評家熱賛!奇想物語!
読み始めてすぐに、不思議な世界へ!
図々しい物の怪に、振り回されてみては?
うお太郎のゴーイングマイウェイ度:★★★★★
主人公・由木尾(ゆきお)が、池の掃除をしようと水を抜いたら、
底に全裸の白い男が寝ていた!
このうお太郎と、由木尾が関わる(巻き込まれる)、
摩訶不思議な出来事が語られていく、‟変な魅力”の怪奇ファンタジーです。
衝撃的な登場をする人魚・うお太郎は、
我が道をいく超マイペースっぷりを発揮します。
自分の好きなように行動し、気に入らないことをされると文句ぶーぶー。
遠慮はまったくせず、服を着るのが嫌だから、全裸で過ごす。(外出時は女装する)
でも、何だか憎めないのです。
うお太郎にも、いろいろ事情がありそうですしね。
恐ろしい場面も出てくるけれど、作品が重くならないのは、
うお太郎の飄々とした雰囲気のせいかも?
不思議で、残酷で、滑稽で、幻想的で、
ときには、しんみりほっこり…。
う~ん、とにかく不思議な魅力のある作品でした!
不思議な石の魅力度:★★★
記憶をとどめる石や、幽霊が入っている石、未来の夢を見せる石などなど。
由木尾の祖父は、山でこういった石を見つける力のある人で、
その力は由木尾に受け継がれているのです。
現在、彼は寺に一人暮らし。(居候を除く)
居ついているうお太郎から、石と祖父について聞くのですが、トラブルがわんさか。
うお太郎以外の人魚や、謎の少女、天狗なんかも出てきちゃって…。
寺の再建どころではない気が(汗)
由木尾の子ども時代に起きた、残忍な事件についての謎もあり、ミステリ要素も。
由木尾とうお太郎の過去の真実には、驚かされます!
主人公の振り回され度:★★★★
由木尾を振り回すのは、うお太郎だけにあらず。
傍若無人な作家の兄、不思議な言動をする浴衣の少女、けっこう勝手な天狗。
寺は、貧乏まっしぐら。
優しい手伝いのおじいさんが支えてくれるのが、せめてもの救いですね(泣)
周りの面子が問題かもしれないけど、生まれついての振り回され体質な気がする…。
特殊な血筋であったうえに、人ならざる者たちと、
深くかかわることになってしまった由木尾。
彼の人生はどうなってしまうのか…まぁ、意外と楽しそうかも?
おかしな寺の、おかしな日常。
物の怪との、奇妙な同居生活を覗いてみませんか?