作者名:恩田 陸 角川文庫
小さな丘の上に建つ二階建ての古い家。幽霊屋敷に魅了された人々の記憶が奏でる不穏な物語の数々。キッチンで殺しあった姉妹、少女の傍らで自殺した殺人鬼の美少年…。そして驚愕のラスト!
異国の残酷な、おとぎ話のよう…。
怖いのに、何だか愛おしくなってくる、不思議な魅力の幽霊屋敷!
どの話も面白怖い度:★★★★★
小さな丘の上にぽつりと立っている、古い洋館。
過去にいくつかの恐ろしい事件が起き、幽霊屋敷と噂されています。
でも、今でも住んでいる人はいて、
家は変わらず、大切にされているみたい。
海外の穏やかな田舎暮らしを感じさせる、素敵な雰囲気を漂わせながら、
徐々に異常性を増していく、語り手たちの話が、9つ収録されています。
どの話も、短編ホラーとして面白い!
屋敷の穏やかな暮らし…
今晩は何を食べようかしら、そろそろ季節のジャムを作ろうかしら、
パイは焼けたかしら、ポーチでゆっくりしましょう…。
そんなことを思いながら、語り合いながら、過ごしていただけなのに、
いつの間にか、話は予想外の方向へ!
驚きと恐怖を、素敵な雰囲気で包み込んだ、雰囲気たっぷりの作品です。
短いけどインパクト度:★★★★
1つの話が、20ページほどで、本編も200ページくらいの短さです。
でも、1つ1つの話が、しっかり印象に残るホラー。
個人的に、話の展開が面白いのが、表題作「私の家では何も起こらない」と、
「あたしたちは互いの影を踏む」でした。
表題作は、住民の女性の家への愛とともに、家の異常な歴史が明らかにされ、
意外な結末が、最初から楽しませてくれます。
「あたしたちは互いの影を踏む」は、台所でアップルパイを焼きながら、
家を手に入れられた幸運を語り合う姉妹の話…なのですが、
お菓子作りという可愛らしい状況からの、まさかの展開が印象的。
怖っと思ったのが「僕の可愛いお気に入り」と、
「奴らは夜に這ってくる」「私の家へようこそ」。
綺麗な顔をした少年が、あるきっかけから入った家の床下に、
少女の姿を見つける「僕の可愛いお気に入り」。
少年の語る内容は、徐々に恐ろしさを増していき…病んだホラー感が強い作品。
「奴らは夜に這ってくる」が、怖いもの×怖いもので、
いちばん恐ろしいエピソードでした。
「私の家へようこそ」では、女性作家の楽しそうなおしゃべりの内容にゾクリ。
「俺と彼らと彼女たち」には、思わずクスっと笑ってしまいました。
大工の親子が、噂の幽霊屋敷に修理に行くと…?
こういう幽霊屋敷話もいい!個人的に好きな作品です。
何だか切なくて愛しくなってしまったのが、「素敵なあなた」。
「私は風の音に耳を澄ます」「我々は失敗しつつある」は、
この作品の‟らしさ”全開で、楽しめました。
特に「私は風の音に耳を澄ます」の、病んだ幸福感が何とも言えない…。
全体的に何だか癖になる作品で、読みやすさもあって、たまに読み返したくなります。
怖いだけじゃない度:★★★
怖い話が主なんですけど、それだけではない魅力があります。
作者の、幽霊という存在への愛が感じられるというか…。
正直、読み終わった後、「この幽霊屋敷なら、住んでもいいかもしれない…。」
なんて、思ってしまったほど。
海外の怪奇小説が好きな人、
とくにシャーリィ・ジャクスンの「丘の屋敷」とか、
‟怖いけれども優美なお屋敷ホラー”が好きな人には、
たまらない空気に満ちた作品かも!
美しい文体で語られる、‟彼らの彼女たちの”大切な屋敷。
じんわりくる不気味さ・怖さが楽しめます。