作者名:ケイト・マスカレナス 創元SF文庫
1967年に開発されたタイムマシンを厳格に管理すべく、国家から独立した巨大組織〈コンクレーヴ〉が誕生。時間旅行を独占するのはもちろん、タイムトラベラーが起こした時間犯罪にもこの組織が対処する。だが、タイムトラベルには人格に及ぼす深刻な副作用があり、ある殺人事件を巡ってその恐るべき事実が明るみに……異色の時間SF!
友情と夢に溢れた発明が、人間の精神に及ぼした影響とは?
科学者が、孫娘が、死体の第一発見者が、真相解明に大奮闘!
可愛いタイトルと表紙に騙されることなかれ!度:★★★★
「時間旅行者のキャンディボックス」という可愛い感じのするタイトルに、
女性とウサギとキューブの、ポップな雰囲気の表紙イラスト。
タイムトラベルが巻き起こした、てんやわんやの大騒動を描く、
賑やかな作品なのかと思いましたが、
帯には「過度の時間旅行はあなたの精神を損なう恐れがあります」という文言があり、
紹介文では、‟時間旅行の副作用”やら‟殺人事件をめぐる恐るべき事実”やら書かれており、
実際に読んでみたら、何とも緊迫の事態が続く、
サスペンスフルなSF作品でした。
1967年に、バーバラ・マーガレット・ルシール・グレースの4人の若き女性科学者が、
タイムトラベルの実験に成功!
しかしバーバラは、連続して時間旅行実験を行った結果、あるトラブルを起こしてしまい、
その後も科学者として関わることが、難しくなってしまったのです。
のちにマーガレットが、タイムマシン運用組織「コンクレーヴ」を設立し、
この組織に所属するタイムトラベラーだけが、時間を行き来する権利を持つことに。
開発に関わった4人の女性科学者のパートと、
バーバラの孫娘ルビーのパート、
コンクレーヴに呼ばれた宇宙生理学者アンハラッドのパート、
そして博物館内で偶然に、老齢女性の射殺死体を発見してしまったオデットのパートが、
メインで語られます。
この謎多き殺人事件を軸に、
タイムトラベルが人間の精神にどんな影響を与えてきて、何が起きたのかが、
さまざまな年代の語りを通して、徐々に明らかにされていき…。
どんどん混乱と緊迫の度合いが増し、ついに驚きの真実が!という物語。
時間SFって、どの作品もろくなことが起きない印象がありますが、
本作品も、序盤から、今後とんでもないことが起きるに違いない!
と読者に思わせる展開です。
ついつい気になって、次の語り手に進んでしまいました!
時間旅行の精神への影響を描く度:★★★★★
時間SFといえば、タイムトラベラーたちが過去・未来で行った行為が、
歴史を改変することになってしまい、
のちのちとんでもない事態になる、という展開が思い浮かびます。
この作品でも、もちろんタイムパラドックスについては問題視されますが、
それ以上に、「時間旅行が人間の精神にどのような影響を及ぼすか」が主題。
ありえない時間帯への移動により、時差ボケのような状況に陥り、
精神的に不安定になることが、最初は問題とされていましたが、
読んでいるうちに、より深刻なタイムトラベラーたちの変化が明らかになってきて…。
どんどんずれていく彼らの感覚に、本気でぞ~っとしました。
謎の射殺死体にコンクレーヴが関係していることが判明し、
さまざまな時間軸で登場人物たちが行動を起こし、ミステリ色が強くなります。
「被害者は誰か」「犯人は誰か」「死因は何なのか」。
謎が謎を呼び、SF好きはもちろん、ミステリ好きも楽しめるかと!
頑張る女性キャラ度:★★★
タイムトラベルの研究と体験が忘れられないバーバラ。
プライベートで悩みつつも、祖母を心配し、タイムトラベラーに接近するルビー。
謎めいた行動で周りを翻弄し、カギを握る存在であるグレース。
殺害現場の謎を解かなければ、平穏は訪れないと決意し行動するオデット。などなど…
圧倒的に女性が活躍するSF作品です。
彼女たちの目的と行動、そして各時代に把握していた事柄が絡み合い、真相が明らかに。
ラストは、時間SFならではの、嬉しい仕掛けもあり、楽しめました。
自分がタイムトラベルをするのなら、過去未来の自分とは関わらずに、
別の時代を観光して楽しむだけにしたい!
そうじゃないと、とんでもないことになるかも…?
時間SF×ミステリ×ロマンス!
タイムトラベルに関わった女性たちの、驚きの人生を描く物語!