作者名:ギレルモ・デル・トロ ダニエル・クラウス 竹書房文庫
1962年、孤児院で育ったイライザ・エスポジートは、生まれつき口が利けない。ボルチモアにある政府の極秘研究施設で深夜勤務の清掃業務をこなしつつ、彼女は己の退屈な人生の中でもがいていた。そんなある晩のこと、イライザは偶然にも、“ある何か”を見てしまう。それは、この研究施設創設以来の“貴重品”。アマゾンの奥地で神のように崇められていたという“彼”の奇妙だが、どこか魅惑的な姿に心奪われたイライザは、周囲の目を盗んで会いに行くようになる。子供の頃のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なかった。音楽とダンスに手話、そして熱い眼差しで二人の心が通い始めた時、イライザは“彼”が間もなく国家の威信をかけた実験の犠牲になると知る──。
アマゾンの‟神”を巡り、何人もの人間の運命が大きく動く…。
登場人物の生き様と、不思議な恋が描かれる、大人のファンタジーです。
やっぱり心臓に悪い度:★★★
ダークファンタジー映画「パンズ・ラビリンス」や、
怪獣と2人乗りロボットの戦闘を描くアクション大作「パシフィック・リム」など、
わたしが見てきた印象では、デル・トロ監督の映画作品は、
ハラハラ度が高く、心臓に悪かったです。
特に「パンズ・ラビリンス」が面白いけれども、緊張し通しだったので、
「シェイプ・オブ・ウォーター」が公開されたときも、
これ見に行くなら気合入れなきゃ…なんて思ってました。
結局見損ねてしまいましたが、監督が、がっつり関わったらしい小説を発見。
本なら自分のペースで楽しめると思い、購入。
読んだ感想はというと、暴走する人物や追い詰められていく人物が多いので、
ハラハラはします。
が、びくびくしていたほどではなく、何というか、優しさを感じられる作品でした。
謎多き生物と、話せない女性との、切ない恋物語がメインで、
生物を取り巻く人間たちの人生が、大きく変化せざるをえなくなる混乱と、
彼らの心情や絆も描かれた、ヒューマンドラマも濃厚。
じっくり楽しめました。
登場人物の心理に引き込まれる度:★★★★★
何人かの語り手が、入れ替わりながら、物語は進みます。
主人公は、謎の生物と心を通わせることになる、
孤児院育ちの喋れない女性・イライザ。
読み手をハラハラさせるのが、生物に敵意を燃やし、
己の職務と家庭に関する悩みをエスカレートさせていく軍人・ストリックランド。
この2人の他にも、自分の生き方について悩みを抱える人物の内面が、
つぎつぎ語られていきます。
イライザの隣人で、初老のアーティスト・ジャイルズ。
職場の同僚で、イライザの良き友人である黒人女性・ゼルダ。
研究施設に来て間もない博士・ホフステトラ―。
夫の変化と子育てに悩み、ある行動に出るストリックランドの妻・レイニー。
悩み多き彼らの人生は、アマゾンから謎の生物「ギル神」が来たことで、
それぞれ大きな局面を迎えることになり、
行動の結果、各人物が、最終的に予期せぬ道に進むことに。
この辺がしっかり丁寧に描かれていて、未知の生物がでるSF作品というより、
やはり恋愛&人間ドラマ的色合いが強いと感じました。
大人のおとぎ話度:★★★★
孤独な境遇で、喋れず、研究所の深夜勤務で何とか生計を立てている女性。
アマゾンの奥地で神と畏れられていたのに、軍人と科学者のもとに、
無理やり連れてこられた、知性ある生物。
2人が徐々に心を通わせますが、‟彼”の待遇はひどいもの。
イライザはある決心を固める…。
と、孤独な女性と謎の生物とのファンタジーな恋を描く作品ですが、
入り乱れる権力の思惑や、登場人物の個人的なリアルな悩み、
当時の強い差別意識、暴力的なシーンもあり、
本当に「大人のための」おとぎ話・ファンタジーと言える作品です。
イライザのシーンも読みごたえがありますが、
レイニーやゼルダに感情移入してしまう女性が多いのでは…。
捕獲された‟神”と唯一コミュニケーションが取れたのは、喋れない孤独な女性。
秘密の交流が、多くの人間の人生を狂わせる!
じっくり読みたい大人のおとぎ話です。