
作者名:ジャック・リッチー 河出文庫
超人的な力と鋭い頭脳で難事件を解決する黒服の私立探偵。ただし営業時間は夜間のみ。その正体は―短篇の名手リッチーが生んだユニークな名探偵カーデュラ・シリーズを全作収録した世界初の完全版“カーデュラの事件簿”。さらに「いい殺し屋を雇うなら」「さかさまの世界」など5篇を新訳で贈る。
設定を活かした、吸血鬼探偵物語が面白い!
ノンシリーズの短編5篇も収録されていて、楽しめる1冊です。
魅力ある探偵度:★★★
主人公の紳士カーデュラは、由緒正しき吸血鬼。
しかし、現代社会の世知辛い事情により、
自分の食い扶持は自分で稼がなくてはならないことに。伯爵なのに…。
そこで、夜間のみ営業の私立探偵社を開いたのですが、
持ち前の洞察力と、特殊能力で事件を解決していきます。
結構、天職なんじゃないかと思わせる活躍っぷり。
吸血鬼の伯爵なのに、領地を没収されて働かなくてはいけない身の上がわびしく、
それでも割と行動的で、意外に適応能力が高いのが魅力的。
最初の話「キッド・カーデュラ」では、手っ取り早くファイトマネー稼ごうとして、
プロボクサーになろうとするし(笑)
わりと縛られないというか、柔軟な発想をする…
こういうところが、探偵向きなのかも?
基本的にはミステリ短編なんですけれど、
ボクサーを目指す話と、ヴァン・ヘルシングに逆襲する話は、コメディタッチで笑えました。
設定活かしている度:★★★★★
がっつりミステリなんですけど、短くまとまっています。
ピンチに陥っても、吸血鬼パワーで相手を投げ飛ばしちゃうし、
情報収集もサクッと侵入できるから、お手の物ですし、
トラブル対応と、リサーチは、さすがの手際の良さ!
テンポよく進んでいきます。
奇抜な設定ゆえのユーモアもあって、アメリカのホームドラマみたいな雰囲気に。
「カーデュラ探偵社」は、命を狙われている伯父を守ってほしい、
と女性が依頼に来て始まります。
正統派ミステリかと思えば、その解決法でいいの…?と、突っ込みたくなるラスト。
「カーデュラ救助に行く」は、謎めいた状況から意外な展開になるのが、秀逸なミステリ!
ユーモアとひねりと、吸血鬼パワーが全開で、楽しめました。
「カーデュラと鍵のかかった部屋」は、盗まれた絵画を取り戻してほしい、
との依頼を受ける話。
人間のやましさに呆れながらも、意外な結末にクスッとなりました。
「カーデュラと盗癖者」では、カーデュラの倫理観が垣間見えます。
カーデュラ、人間ではないけれども‟紳士”なので!
読んでいるうちに、すっかり好きになりました。
そのほかの短編も良作度:★★★★
「無痛抜歯法」「いい殺し屋を雇うなら」は、
最後に思わずニヤリとしてしまうブラックなユーモアを感じるミステリ。
「くずかご」は、サイコホラーなショート作品。
「さかさまの世界」は一転して、ユーモアなしの殺人事件捜査もの。
「トニーにために歌おう」は、ひどい話なのにハートウォーミングで、好きな作品です。
カーデュラ以外の短編も面白いのです。
他の作品もチェックしたくなり、
「クライム・マシン」という、同じく河出文庫から出ている短編集をゲット。
表題作のほかに、MWA賞受賞作「エミリーがいない」など14篇が収録された名作集です。
カーデュラシリーズも秀逸ですが、
こちらはまさに傑作ミステリぞろい!どちらもお勧めです。
紳士で探偵で吸血鬼なカーデュラが、魅力的!
ちょっと変わった探偵ものが読みたい人に、おすすめです。