作者名:田中 芳樹 ハヤカワ文庫JA
突如地球を襲った未曾有の惨事“大転倒”―地軸が90度転倒し、南北両極が赤道地帯に移動するという事態に、地上の人類は全滅した。しかし、幸いにも月面に難をのがれた人類の生存者は、地上に七つの都市を建設し、あらたな歴史を繰り広げる。だが、月面都市は新生地球人類が月を攻撃するのを恐れるあまり、地上五百メートル以上を飛ぶ飛行体をすべて撃墜するシステムを設置した。しかも、彼らはこのシステムが稼動状態のまま、疫病により滅び去ってしまったのだ。そしてこの奇妙な世界で、七都市をめぐる興亡の物語が幕を開くのだった。
権力者たちの醜い争いを、冷笑しつつも支える天才たち。
彼らの、鮮やかで残酷な戦いを描く、圧巻の戦争SF小説です。
斬新な設定が活きている度:★★★★
物語の舞台は、地軸が90度回転するという天変地異により、
多くの人類が犠牲になり、地理が激変した未来。
異星でもなく、宇宙でもなく、
大陸の様相が全く変わり、別世界になってしまった地球が舞台、
という変わった設定です。
一部の人類は月面都市にいて、難を逃れ、
その後地球上に降り立ち、地球の表面を七分割し、七つの都市を建設。
地球の人間が、月面に対し攻撃できないように、「オリンポス・システム」を設置します。
このシステムは、一定の高度に達した航空機を爆破してしまうので、
月面都市が疫病で崩壊した後も、地球人類は、
しばらく地上で行動するしかないのでした。
アクイロニア、ニュー・キャメロット、ブエノス・ゾンデ、
プリンス・ハラルド、クンロン、タデメッカ、サンダラー。
この七つの都市は、実力が拮抗しており、何かきっかけがあれば他都市に侵攻して、
一歩抜きんでよう!という野心を持つ政治家が多数います。
どんな時代になっても、欲望ずくの権力争いがやめられない状況で、
巻き込まれるのは一般人と兵士と、権力者を冷笑する天才軍師たち。
真に優秀な軍人である彼らが、自分の流儀と誇りを守りながら、
自分以外の天才たちと、悲惨な戦場で頭脳戦を繰り広げる物語です。
戦争と人間の愚かさを描く度:★★★★★
こういう戦争メインの小説は、あまり読んだことがなく、
あっても、超能力者の戦争SFとかだったので、
地の利を予想外の形で利用する戦法とか、奇をてらった戦術とか、
戦場で起きるミスが招く事態とか、
がっつり戦術・兵法・勝利後の利権!などが描かれる作品は読んでいませんでした。
「銀河英雄伝説」も、何となくこういう話…という程度にしか知らず(汗)
どういう感じなのかな?と思って読み始めたら、結構止まらない!
権力者や上官の、欲にまみれた無能さに、振り回される前線。
戦闘中、兵士たちに降りかかる災難の、容赦のない描写。
指揮官たちの駆け引きと、敵の斜め上を行く戦略。
5つの大きな戦いを、一話ずつ描いているのですが、
ひとつ読み始めると、戦いの行方が気になって、結局読んでしまう…。
最後に収録されている、帰還兵をめぐる短いミステリも面白いです。
登場人物の存在感度:★★★
メインの登場人物が、イラスト付きで紹介されています。
だれもが、とっても我が強く、存在感がすごい。
この作品の中で、ほかの軍人との決定的な違いを見せつける人材。
有能ながら、どうしようもない短所を抱える権力者。
誰よりも聡明で、しかし平和な暮らしを望む策士。
どんな目にあっても、決して野心を捨てられない元有力者。
彼らの誰が、勝利を得て、笑うのか。
気になって目が離せなくなる、壮大な作品でした。
いちばん上手く立ち回るのは、誰?
リアリティたっぷりの、戦争SFの迫力!