作者名:恩田 陸 講談社文庫
強烈な百合の匂いに包まれた洋館で祖母が転落死した。奇妙な遺言に導かれてやってきた高校生の理瀬を迎えたのは、優雅に暮らす美貌の叔母二人。因縁に満ちた屋敷で何があったのか。「魔女の家」と呼ばれる由来を探るうち、周囲で毒殺や失踪など不吉な事件が起こる。将来への焦りを感じながら理瀬は―。
自分を取り戻した理瀬は、今後について悩み焦る。
そんな時降りかかってきたのは、身内の真の姿を暴きかねない事件で…。
むせかえる百合の香りに、隠された真実とは?
現実のサスペンス度:★★★★
謎の稀覯本ををめぐるミステリを描く、
「三月は深き紅の淵を」からスタートしたシリーズの作品です。
本のタイトルそのものの稀覯本に関連する、4つの短編からなる「三月は深き紅の淵を」。
閉鎖的な全寮制の学園で起きる事件を描く、「麦の海に沈む果実」。
学園で理瀬と親しくなった少女と関係する「黒と茶の幻想(上・下)」。
そして、「麦の海に沈む果実」と同じく、理瀬が主人公の本作、という流れ。
本作から入っても、全くついていけないわけではないけれど、
「麦の海に沈む果実」は読んでおいた方が、断然楽しめます。
「麦の海に沈む果実」は、優美で幻想的で、日常とは隔絶された学園が舞台。
生徒の間で不気味な伝説があるわ、つぎつぎ死者や失踪者が出るわで、
独特の、耽美でどこか現実離れした雰囲気がありました。
そして本作、高校生になった理瀬が登場する「黄昏の百合の骨」は、
優雅で妖しい空気は感じるものの、「麦の海に沈む果実」と比べると、
現実のサスペンスミステリ、という感じ。
異国情緒のある観光地としても人気な、素敵な住宅街で、
普通の高校に通うようになった理瀬が、友達とお茶したり、
自転車に乗せてもらったりするシーンがあり、
前作の、現実離れ感が薄れているのです。
しかし、理瀬は変わらず理瀬で、
前作の色々あるメンバーも、回想シーンで登場するし、
百合の香りに満ちた妖しい洋館で暮らす、美しいけれども訳ありそうな叔母さんもいるし、
何というか、やはりどこか耽美で、魅力的な雰囲気は健在。
この雰囲気の中で起きる事件は、今回も謎に満ち、おどろおどろしく…。
つい一気読みしてしまいました。
油断ならない人間関係度:★★★★★
昔から欠かさず百合を飾っていた、理瀬が幼少期に暮らした洋館。
ずっと住んでいた祖母が、少し前に転落死してしまいます。
祖母の謎めいた遺言状に導かれ、イギリスに留学していた理瀬は、
日本の高校に転入し、再び洋館で暮らすことに。
祖母と住んでいた、美しい叔母2人は、謎の言動を見せますし、
帰ってきた従兄弟の2人も、何やら考えていることがありそう。
同年代の子からは、気になる噂を聞いてしまうし、
近所では、不可解な出来事が続いて…
相変わらず、理瀬の身の回りはきな臭いみたいです。
そして、ついに死者や失踪者が出てしまい、
屋敷に隠された秘密が明らかになるとき、理瀬に危険が!
美しく‟特別”な少女・理瀬の身の回りにいる人々は、
みんな本当の顔を見せていないようで…
誰もが疑わしいサスペンスフルな作品でした。
意外な真相度:★★★
祖母は、本当に心不全を起こし、階段から転落死したのか?
彼女が、遺言で理瀬を呼び戻した理由は?
一見対照的だけど、実は似ているような叔母姉妹は、何を考えているのか?
従兄弟とともに探す、あるものの正体とは?
謎がいっぱいの本作ですが、気になるのはやはり、
作中生じる事件の、死を招いた犯人です。
疑わしい人間が多いので、当てられたらすごい!私は分かりませんでした…。
理瀬の今後が、気になって仕方がない!
引き込まれる独特の雰囲気の、美しく妖しいミステリシリーズです。