作者名:ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫
一九七六年五月。八月の民主党全国大会で副大統領候補に推されるはずの上院議員が、行方不明のわが娘を捜し出してほしいと言ってきた。期限は大会まで。ニールにとっての、長く切ない夏が始まった…。プロの探偵に稼業のイロハをたたき込まれた元ストリート・キッドが、ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する。個性きらめく新鮮な探偵物語、ここに開幕。
才能に恵まれながら、ときに繊細な心に振り回されるニール。
青年探偵の活躍を読みたいのなら、ぜひ!
正統派探偵もの度:★★★★★
コロンビア大学大学院で、英文学を学ぶ青年ニール・ケアリー。
名門私立校を経て、学問にはげむ彼ですが、
父を知らず、薬物中毒の母と暮らしていた、元ストリート・キッド。
少年時代は掏摸をしていましたが、義手の私立探偵ジョー・グレアムと出会い、
才能を見せた彼は、探偵のスキルを叩き込まれます。
グレアムの背後には、「朋友会」という秘密の存在があり、
援助を得て、表向きはエリート街道を歩み成長するニール。
しかし、その裏では、危険な探偵稼業に携わっています。
あるとき、彼のもとに、大物議員の家出娘アリソン・チェイスを連れ戻してほしい、
という依頼が舞い込みますが、何だか不穏な雰囲気。
ニールはいやいやながらも、彼女を探しにイギリスに赴きますが…。
リアルかつ、すごさに感心してしまう探偵のスキル、
絡み合う、権力者とその手足たち、裏社会の住民の思惑、
緊迫の騙し合いとアクションシーンなどに、とても読み応えがありますが、
減らず口をたたきながらも、己の在り方に悩みが尽きないニールの心情にも、
引き込まれていってしまいます。
シリーズ全部おすすめ度:★★★★
物語の構成が素晴らしくのはもちろん、
つい憎まれ口をきいてしまうニールと、意に介さないグレアムの掛け合いや、
気の利いたセリフ、ときおり入る詩的な表現なども、
ぐいぐい読者を引き込んできます。
このシリーズは、5作で完結。
2作目「仏陀の鏡への道」と3作目「高く孤独な道を行け」は、
1作目に劣らない、骨太な傑作で、おすすめです。
4作目「ウォータースライダーをのぼれ」と5作目「砂漠で溺れるわけにはいかない」は、
コミカルな魅力があり、ファンに嬉しい作品。
近年では、「犬の力」「ザ・カルテル」といった大作も話題になりました。
デビュー作である本作から、読んでみてはいかかでしょう。
ニールに感情移入度:★★★
苦しみを抱えて、堕落の道を進んでしまう少女アリソンや、
探偵らしく抜け目がないけれども、何だかんだでニールを心配するグレアムも、
それぞれ魅力的だし、
イギリスで出会う面々も、しっかり描かれていて楽しめます。
しかし何といっても、順調に生きているようで、そうとも言い切れないニールが、
どうなってしまうのかが気になる気になる。
本好きで、英文学の教授になりたいと願いつつも、
自分の、人とは違う背景に悩み、それでも探偵として任務を果たそうという彼を、
読んでいるうちに、応援したくなります。
少女の家出事件が、実力派の青年探偵を境地に陥れる!
読み応えのある探偵小説が読みたい人に、おすすめです。