作者名:芦部 拓 創元推理文庫
蒸気機関を主な動力源とする大都会に暮らす少女エマは、空中船“極光号”の船長である父を迎えるため港への道を急いでいた。船内の一室で、ガラス張りの“繭”に封じられた少年を発見し、解放してしまったエマは、彼と共に、その場に居合わせた名探偵ムーリエに弟子入りして都市で頻発する不可能犯罪を調べることになり…。夢溢れる空想科学世界を舞台に贈る傑作本格ミステリ!
ワクワクする空想科学都市を舞台に、がっつり本格ミステリも楽しめる!
少年少女のボーイ・ミーツ・ガールも、お見逃しなく!
ときめく世界観:★★★★★
主人公で語り手の少女・エマが住んでいるのは、
19世紀のイギリスに似た、けれども異なる世界。
大都会では、蒸気機関を動力源とした、さまざまな発明が使われており、
まさに空想科学都市といった様相です。
エマが街を移動するシーンでは、蒸気辻馬車や蒸気乗合車が道路をいきかい、
屋内では、人々が蒸気機械で家事をし、幻灯新聞でニュースをチェックする…
ワクワクする世界観で、SF・ファンタジー・冒険小説好きにはたまらない!
しかし、スチームパンクSF小説ですが、それと同じくらいミステリの要素が強い作品で、
物語の軸は、名探偵と探偵助手の少年少女の謎解きです。
将来の進路に悩む好奇心旺盛な少女・エマは、宇宙航行から帰還した父に会おうと、
船に乗り込んだのですが、そこで謎の繭のような容器に入った少年・ユージンと出会います。
ユージンは、宇宙で発見されたらしく、誰も容器から彼を出せなかったのに、
エマはあっさりと、彼を開放してしまったのでした。
この出来事がきっかけで、居合わせた名探偵バルサック・ムーリエのもとで、
エマとユージンは職業訓練を兼ねて、探偵助手をすることに。
ユージンという謎の存在が気になるエマですが、平和な蒸気都市で奇怪な殺人事件が発生し、
彼女のまわりで謎は増えていくばかり。
さらに事件は続き、ついには世界中を巻き込む大事へと発展!
蒸気やエーテルといった力で成り立つ世界で、名探偵はどのような推理を披露するのか。
とことん、この世界観に浸りながら読むと、より最後の謎解きを楽しめます…。
SFかつミステリ度:★★★★
名だたる科学者や工学士が、奇妙な状況で他殺体となって見つかり、
名探偵バルサック・ムーリエとユージンの言動に、引っかかりを覚えるようになるエマ。
頑張り屋の彼女は、後半その行動力で、納得する答えを得るべく奮闘します。
一方、世界中の要人が集めるイベントでは、ある企みが進行していて…。
クライマックスでは、SFの世界とミステリを楽しんでいた読者を、あれっ⁉と言わせる、
意外な事実がどんどん明らかになります。
対決あり、アクションあり、そして迎える大団円で、
今までの不思議な出来事が解説されるのですが、
な~んと、あらあらそういうことか!と驚きながらも納得していたら、
最期の最後に、そこも違ったんかい!と突っ込んでしまう仕掛けが。
可愛い表紙を見てライトノベル寄りなのかな?と思っていたら、がっつりSF&ミステリでした。
ライトと本格度:★★★
その世界観ゆえか、謎解きの場面は、やや理系色強し。
2~3回読んで納得した部分も…。
予想していたよりも壮大な設定で、最後までしっかり謎解きの、SFミステリ小説でした。
しかし、生き生きした登場人物が多く、語り手が元気で素直な女の子なので、
文章はライトで、とても読みやすかったです。
勢いがなくなりそうになると、主人公の友達で可愛らしいのに怒りんぼうなサリーが暴れるので、
物語通して、テンション高め(笑)
好奇心旺盛少女、訳あり少年、美形名探偵、いかにもな警部、天才肌のお嬢様、
などなど個性がはっきりした人物が動き回り、読んでいて楽しい作品でした。
蒸気都市、名探偵、謎の少年、奇怪な殺人事件…そそられる方は、ぜひ!
ライトな文章で、本格ミステリ&スチームパンクSFを楽しめます。