作者名:小栗 虫太郎 河出文庫
世界のテラ・インコグニタ(未踏地帯)―南米アマゾン河奥地、グリーンランド中央部氷河地帯の冥路の国、青海省ヒマラヤ巴顔喀喇山脈中の理想郷、そしてコンゴ北東部の秘境中の秘境“悪魔の尿溜”―。国際諜報家・折竹孫七らが戦時下を舞台に活躍する、探検・SF・スパイ・魔境小説。『新青年』に書き継がれたオグリランドの極北!
ときに美しく、ときに非情…人類が行くべきではない場所が、確かに存在する。
そのまがまがしくも魅力的な秘境に、引き込まれずにはいられない!
今読んでも、刺激的!度:★★★★★
最初の2話は違いますが、そのほかの11話は、
世界的に有名な鳥獣採集人で理学士、かつ秘境冒険家でスパイでもある、
折竹孫七の活躍を描く、冒険小説です。
祖国の利益を求め、ときに訳ありの女性や欲深い人間に四苦八苦させられつつも、
持ち前の知識と発想、機転と体力で、
並の人間なら生きては帰れない、恐るべき魔境から生還する折竹の、驚異の体験談。
1939年から1941年に「新青年」で発表された作品なので、
時代がかった語り口にはなっていますが、そんなに読みにくくはないです。
「~やいかに⁉」みたいな文章、読んでるうちに癖になるかも(笑)
何よりすごいのは昔の作品なのに、どの魔境も、ひ~何それ!と驚く、刺激的なものだということ!
深い知識と、驚異の発想に裏打ちされてるからなのか…。
1話目「有尾人」からして、とうに死滅したはずの原人と思われるドドとともに、
「悪魔の尿溜:ムラムブウエジ」と呼ばれる、毒羽虫の霧がある地に赴くというもの。
設定も、ネーミングもすごい!そして面白い!
インパクトが色あせないって、恐ろしいですね~。
人間ドラマも見逃せない度:★★★★
1・2話は、折竹以外の人間の冒険譚を、書き手が語る展開で、
3話目から、折竹が主人公のエピソードになります。
1話「有尾人」では、冒険のほかに男女のすれちがいが描かれますし、
2話「大暗黒」では、折竹に負けない魅力の人物と、
厳しい人生を歩まざるを得ない女性が出てきます。
以降の話では、折竹の敵となる知己に長けた強敵や、強欲な俗物、
悲しい運命の女性たちなどが登場。
少しの油断が死を招く魔境で、関わった人間たちの人生のドラマが展開され、
もうハラハラハラハラ!
ただ単に、死地を探検して征服!というお話ではないので楽しめます。
1・2話は、他と比べて長めで内容もインパクト大。いかにも冒険もので好きです。
2話「大暗黒」は、アトランティスが出てくる話で、ラストは衝撃!
個人的に、5話「水棲人」も、水棲の人間目撃談にまつわる、
驚きの真相と切ない余韻がお気に入りです。
摩訶不思議な漂流記に、別世界へ連れていかれそうになる4話「太平洋漏水孔」漂流記は、
読んでてクラクラしそう…。
6話「畸獣楽園」は、元気な部族の若者が出てきて、勢いのある冒険もの!と思っていたら、
何とも皮肉が効いたラスト…。
めでたしめでたしで終わらない話が多いのが、
大人の冒険小説というか、自然も人生も甘くないよ、と言われているよう(汗)
そして、いやますリアリティと神秘性。
他のエピソードも、一筋縄ではいかない展開と結末ばかり!
深い知識の説得力度:★★★
自然の厳しさ恐ろしさと、人生の苦労や使命を全うする尊さを描く、
読み応えたっぷりの冒険SF小説。
ファンタジー冒険ものなら、想像の魅力で、空想の世界を素直に楽しめますが、
実際の世界の冒険を、フィクション交えて描くとなると、
ちょうどいいくらいにリアリティが入らない場合、嘘くさい作品になってしまう気がします。
その点本作は、秘境に行ったことにより、人体にこんな影響が出てこんな問題が発生して、
という感じで、いちいちリアル。
プラス空想の驚きもあって、のめり込めます!
長く愛されている作品は、実力があるんだなぁと、改めて納得。
小栗虫太郎というと、日本三大奇書の1つ「黒死館殺人事件」が有名ですが未読。
難解で読みにくいらしいので、「人外魔境」から小栗作品に入って正解だったのかな?
これぞ大人の冒険小説!楽しめました!
思いっきり、日常から逸脱した作品が読みたい人におすすめです。