作者名:津原 泰水 創元推理文庫
天使へと解体される少女に、独白する書家の屍に、絵画を写す園に溺れゆく男たちに垣間見える風景への畏怖、至上の美。生者と死者、残酷と無垢、喪失と郷愁、日常と異界が瞬時に入れ替わる。――綺の字は優美なさま、巧みな言葉を指し、譚の字は語られし物を意味する。本書収録の15篇は、小説技巧を極限まで磨き上げた孤高の職人による、まさに綺譚であり、小説の精髄である。
大傑作!という感じではないかもしれない…けれども、とにかく印象に残って忘れられない。
おぞましいのに、美しい。謎の短編集です!
残酷なのに美しい謎度:★★★★★
15の短編が収められていますが、幻想的でも甘い雰囲気はほぼなく、
残酷な描写が多めで、なかにはウっとくるものも。
けれども、なぜか全体的に上品で美しいのはなぜなのか…。
やや古典的な、洗練された文体のせいなのでしょうか。
この何とも言えない雰囲気を、ぜひとも味わってもらいたいです。
最初の話「天使解体」から、すごい。
事故で死んでしまった女の子の扱いが悲惨なのに、男からは狂気を感じるのに、
何となくのどかな雰囲気なのが、不思議でしょうがなかったです。
「脛骨」は、失った骨という存在と、過ぎ去った歳月の物語が、
切なくも暖かくて、ノスタルジックな雰囲気が好き。
過ぎた過去を思う話は「黄昏抜歯」もそうですが、こちらはいろいろな意味で痛い!
治療した歯ごとに、当時のことを思い出すのですが、
主人公が最後まで好きになれませんでした…。おいおい、と突っ込みたくなる。
はっきり面白い作品も…度:★★★★
結末の解釈が分かれる作品や、性描写がきついものもありますが、
「夜のジャミラ」と「赤仮面伝」は、分かりやすく楽しめました!
「夜のジャミラ」は死んだ子どもの視点から語られるホラーで、
子どもの無邪気な恐ろしさの表現が秀逸で、最後の展開には驚きながらも、ニヤリ。
「赤仮面伝」は、ミステリ要素ありの、古典的雰囲気の怪奇小説。
妖しい物語にドキドキし、最後の一行が効いています。
「玄い森の底から」は、殺された女性の意識がバラバラに崩れていく様子が、
正直ひくくらいの迫力。…う~ん、何か夢に出そう。
「古傷と太陽」も、不思議な現象が美しくも、
最後の展開はゾ~っとしました。
他にも、決して穏やかな展開じゃないのに、不思議にさっぱりした余韻を残す話、
最後の数行でひっくり返る話、
珍妙な…としか言えない話が目白押しです!
ユニークさも忘れない度:★★★
ユニークな作品も、少ないですが収録されています。
ダントツで攻めているのが「聖戦の記録」。
愛犬家と、公園の兎に無責任な愛情を注ぎ暴走する老人たちとの、仁義なき戦いの記録です。
最初、読んだときの衝撃がすごかった!
話としても、エキセントリックで暗示的で面白いんですけど、
それ以上に、設定‼
よくこれ、許可が出たな⁉という、登場人物(と、ペット)の名前です。
あまりのネーミングに、笑いながら読まざるをえず(笑)
忘れられない作品に、なっちゃいました。
「隣のマキノさん」は、‟ゆるふわ系狂気”の話としか、言いようが…。
全部が全部、はっきりああ面白かったという短編集ではなかったんですけど、
何というか、とにかく刺激的な読書体験になりました。
異形の世界に、スルッと入り込める不思議な物語たち。
「クセが強い」作品を求めている人には、ぴったりかも?