作者名:筒井 康隆 新潮文庫
北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。
読んだら冒険の旅に出たくなる!
超能力が存在する不思議な世界を、ラゴスが行く!
世界観がたまらない度:★★★★★
主人公・ラゴスが、生涯をかけて旅をする物語で、
SF要素が強いロードノベル、かつ一人の男の壮大な一代記、という作品です。
ラゴスが旅をするのは、高度な文明が崩壊して、
人々が精神感応などの超能力を獲得しだした世界。
生き物も、スカシウマやらミドリウシやら、巨大な大蛇に幻覚を見せる蝶やら…イラストください!
人々の暮らしぶりは、一度文明が崩壊したため、
イメージとしては、中世くらいの素朴な暮らしです。
そんな世界をめぐる旅の途中に出会う事件は、不可思議な物ばかり。
こんな世界だったら、冒険の旅に出たくなるかも…!
そして、どのエピソードも、深い余韻を残します。
異世界を旅するSF小説ですが、語り口が落ち着いているためか、
おとぎ話を読んでいるような感じがしました。じっくり味わいたくなる作品です。
「たまご道」「王国への道」は、特にそう感じる話かな?
「たまご道」で、ある町にたどり着いたラゴスは、奇妙な道路に驚くのですが、
その理由は何だかファンタジック。
それなのに、ままならない人生の切なさも感じさせるストーリーで、印象に残るお話でした。
「王国への道」は、この話で絵本が一冊書けてしまうのでは?という、
怒涛の展開が盛りだくさんのエピソード!
序盤の「壁抜け芸人」は、別の意味でインパクトが強かったです。
笑い事じゃないけど、つい笑っちゃう展開が(笑)
よく考えると、とんでもない話だったんですけどね~。
「銀鉱」は、どこの世界にも残酷で恐ろしいことはあると思わせる話です。
旅はやはり命がけで、こんな目に合っても旅に出るラゴスの生き方に、
想いを馳せてしまったり…。
一緒に旅をしている気になる度:★★★★
ラゴス目線で読んでいるうちに、何だか自分が旅に出ているような気に。
冷静で賢明な男性で、落ち着いた目線で、旅の様子を語ってくれます。
人から(特に女性から)好かれるので、
いつの間にか中心にいて、いろいろな経験をするのです。
そのモテモテっぷりゆえに、とんだトラブルも招き寄せてしまうのですが(汗)
もともと聡明ですが、旅で知識を吸収し、
ピンチに陥っても、機転を利かせ切り抜けて、旅を続行します。
だんだん年齢を重ね、数年どこかに留まり、妻と子どもをつくることも。
途中から、ラゴスの旅というか、旅人ラゴスの人生を見ているという気がしてきます。
ラゴスが生きる世界は、私たちの住む世界とは、まるで環境が違うし、
人々の知識も能力も異なるのに、
登場人物に感情移入しやすいのが不思議…そしてのめりこんで行く…。
250ページほどの短い作品なのに、「しっかり物語を読んだな」という満足感がある、
ずっしり響く作品でした。
人生って旅だなぁ度:★★★★
残酷で不条理な目にあっても、なぜラゴスが旅を続けるのか。
明確な目的があるからなんですけど、
ラゴスにとっては、人生のための旅ではなく、旅こそが人生であるからだと思いました。
旅こそが人生って、大変だろうけれど魅力的な生き方ですよね。
現代人、なかなか出来ませんけど(泣)
この作品を読むことで、旅人の一生を体験するのも、素敵かなと思います。
ちょっと変わったことがしたいなぁと考えているときとか、
引っ越しなどで環境が変わるとき、
何となく最近楽しめていないなと思うときや、
そしてやはり旅行に行きたい気分のときなどに、読み返したくなる本です。
遠くに旅行したいけれども、なかなか行けないとき。
人生に悩んで、違う景色が見たい気分のとき。
ぜひ、この本を読んでみてください!