作者名:森見 登美彦 朝日文庫
社会人2年目の小和田君は、仕事が終われば独身寮で缶ビールを飲みながら夜更かしをすることが唯一の趣味。そんな彼の前に狸のお面をかぶった「ぽんぽこ仮面」なる人物が現れて…。宵山で賑やかな京都を舞台に果てしなく長い冒険が始まる。著者による文庫版あとがき付き。
「怠けの名言」がふんだんに収録された、ヘンテコ冒険ファンタジー!
何も考えず、週末ごろごろしながら読みましょう。レッツだらだら!
ゆるくコミカル森見作品度:★★★★
京都の町で、1年ほど前から話題の中心なのが、謎の正義の味方「ぽんぽこ仮面」。
狸の仮面をつけ、旧制高校のマントを羽織った彼は、
最初は通報されまくっていましたが、
人々を助ける親切な活動が知られ、いまやグッズも売られる人気者です。
このぽんぽこ仮面、
なぜか某化学企業研究所に勤める青年・小和田君に後を継がせたいらしく、
彼に付きまとって、正義の味方にならないかと猛プッシュ。
しかし小和田君は、もはやプロの怠け者と言ってもいいくらい、
いかなる冒険の誘いにも揺るがない、正真正銘筋金入りの怠け者なのです。
そして迎える祇園祭の日、人助けに励むぽんぽこ仮面に、魔の手が…!
ぽんぽこ仮面の身元調査という依頼を受けた探偵と、バイトの週末探偵。
充実した週末を過ごすことに情熱を燃やす、
恩田先輩と桃木さんのカップル(作中でいちばん好き)。
どう見ても悪役にしか見えない、強面スキンヘッドの研究所所長。
ぽんぽこ仮面の前に現れる、京の町の困った人たち。
彼らが巻き込まれる、大騒動の実態とは?
謎のアルパカ男の目的とは何なのか?
そして、ぽんぽこ仮面の運命やいかに…!
こうして書くと、けっこう大事っぽいですが、
作中に満ち満ちたコミカルな魅力と緊張感のなさは、読者を疲れさせないこと請け合い!
この、面白いけどゆる~い大冒険は、週末ごろごろしながら読むのがおすすめです。
ゆるいけれども、ちゃんとワクワクする冒険物語なので、ご安心を。
怠け者の金言度:★★★★★
個性的な登場人物が、これでもかと出てきますが、
やはりいちばんぶれない個性の持ち主なのが、主人公・小和田君。
「転がらぬ石には苔が付く。やはらかくなろう。」と言いダラダラし、
「人間である前に怠け者です。」と言い切り面倒ごとを断固拒否し、
「退屈で退屈でイヤになるくらい怠けなければ、働く意欲なんて湧くもんか。」と考え、
緊急事態に惰眠をむさぼる。
いっそ大物ぶりを感じるくらい、徹底して怠けようとする姿勢を貫く彼は、
作中に数々の名言を残します。
「ああ、素晴らしきものよ、汝の名はお布団なり。」とか言われたら、
いますぐ布団にダイブしたくなるでしょうが…!
作者の語りの文章でも、
「人生において適切な怠けは重要である」というスタンスが貫かれていて、
基本的には、(愛すべき範囲での)怠け者を温か~く応援する作品。
しかし、作中ひたすら頑張って、疲れて疲れて疲れ果てる人物もいて、
そんな人々のために怠け者は何をするかというと…?
愛すべき怠け者を評価しつつ、実はそれ以上に、
頑張って疲れている人に「休める時には休みなよ」というメッセージを送る物語なんだ、
と思いました。
現代人へのエール?度:★★★
とにかく、怠け者のゴーイングマイウェイっぷりと、
週末を充実させんとする面々の行動と、珍妙な刺客に笑ってしまう作品ですが、
ときに、ハッとするシーンがいくつか。
第三章のラストで語られる、ある人物の焦燥と望みは胸に迫ってきますし、
第四章の宵山クライマックスシーンは、大人はグッとくるのではないのだろうか…。
「夜は短し歩けよ乙女」でも、ひたすら笑いながらも、
先輩の心情吐露シーンではじ~んときたし、
「有頂天家族」もコミカルなだけではない魅力があったし、
ふいに胸を突くシーンを入れてくるのが、にくい演出というもの!
コミカルでエンタメ感が強い森見作品なので、上記2作品が好きな人は楽しめると思います。
「あくびとは、内なる怠け者たちの咆哮である」とは、何と素晴らしい表現か(笑)
肩の力を抜きたい時に、ぴったりのエンタメ作品です!