作者名:シャーリィ・ジャクスン 創元推理文庫
あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている…。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。
これは、恐ろしい中毒性…!
人間心理の怖さを描いた傑作が読みたい人に、おすすめです。
メアリ・キャサリンの世界度:★★★★★
砂糖に毒が混ぜられ、
コンスタンス(コニー)とメアリ・キャサリン(メリキャット)の姉妹と、
ジュリアン伯父さん以外の家族が、みんな死んでしまったブラックウッド家。
若く美しく料理上手ですが、犯人扱いされたコニーは,家の外に出られなくなり、
ジュリアン伯父さんは体が弱り、話がときに支離滅裂で、介護が必要な状態に。
メリキャットは、18歳の少女ですが、身なりを整えず、おかしな言動ばかりします。
事件から6年、3人だけで暮らしていたのですが、
従兄のチャールズが来訪し、生活に変化が…という物語。
メリキャットが語り手ですが、彼女の世界は、
想像とおまじないと他人への悪意で歪んでいます。
彼女が、村へ買い物に行く金曜日のシーンから物語は始まるのですが、
最初のちょっとした自己紹介と、
「マイルール」で固められた思考と行動を少し読むだけで、
「……この子、突き抜けちゃってますな」と読者に速攻伝わります(汗)
住民たちへの警戒を怠らず、絡まれたら妄想の世界へ避難し、
家の敷地内では、本を木に打ち付けて結界代わりにしたり、
安全のための呪文を設定したり…。
はたから見ると、誰かが介入した方がよい状況ですが、
メリキャットにとっては、今のこの状態こそが幸せなのだということが、
読んでいると、痛いくらい伝わってきます。
歪んだ幸せ度:★★★★★
自分の世界を持ちつつも、他者と関わり、やりがいのある仕事に就き、
家族や友人を大切にする。
これが理想的な、幸せな人生のモデルでしょうか。
この作品で描かれているのは、とんでもなく偏ったバランスの、いびつな幸せです。
これじゃ駄目なんじゃないかな~と思いながら読みつつも、
途中から、「ん?いや、これはこれでありかな?」となり、
ラストでは、「この人たちの幸せの形は、確かにこれかも」と納得させられる、
恐ろしい作品でした…。
メリキャットの世界は、病んでいても魅力に満ちていて、読者は勝つことが出来ないのです!
閉鎖性の強さや、あまりにも特殊な事情、姉妹のやや依存的な関係などが、
作品に、異質な雰囲気と謎の中毒性をもたらしており、
たまに「ああ、読みたい。あの世界に浸りたい。」なんて思って読み返してしまう!
歪んだ心理を描く作品ですが、
上品な女性と美味しそうな料理、人目に触れないお屋敷と、ある意味優雅な暮らし、
という描写が多いので、読んでいて、ときに心地よさすら感じるかも。
シャーリィ・ジャクスンの作品には、危険な面白さが満ちているのです…。
この人にしか書けない度:★★★★
姉コニーは、6年間屋敷に引きこもっていましたが、
だんだん外に出なくてはと考えるように。
従兄チャールズが来たことにより、その思いは強くなったのか、
伯父さんの世話やメリキャットの教育を、ちゃんと自分がやらなければいけなかった、
と悔やむようになります。
外部と関わることに、少しずつ前向きになっていくコニーと、
3人だけの暮らしを強く望むメリキャット。
従兄の登場と、コニーの変化により、メリキャットの王国は崩れそうに!
どこまでも病んでいる、社会的に見れば非力な弱者が、
幸せを守るために発揮する‟邪悪”の力…。
これを描けるのが、さすが‟魔女”と呼ばれた作家!と思いました。
歪で幸せな、メリキャットの世界に引きずり込まれる…。
好きな人はとことん好きになる本です!