作者名:乾 緑郎 宝島文庫
第9回『このミス』大賞受賞作品。植物状態になった患者とコミュニケートできる医療器具「SCインターフェース」が開発された。少女漫画家の淳美は、自殺未遂により意識不明の弟の浩市と対話を続ける。「なぜ自殺を図ったのか」という淳美の問いに、浩市は答えることなく月日は過ぎていた。弟の記憶を探るうち、淳美の周囲で不可思議な出来事が起こり―。衝撃の結末と静謐な余韻が胸を打つ。
弟はなぜ自殺未遂を起こしたのか?最近見る不思議なビジョンは一体何か?
現実と意識の世界…境界があいまいになったとき、何かが起きる。
映画化原作の、第9回このミス大賞受賞作!
SF好きも楽しめる設定度:★★★★★
主人公の女性漫画家・淳美は、母が亡くなってから、身内は自殺未遂を起こした弟のみ。
弟は長年、昏睡状態で、現在はある施設に。
その施設「西湘コーマワークセンター」では、昏睡状態の患者の意識に入り、
「センシング」という意思の疎通を行うことが可能です。
淳美は何度もセンシングで、弟・浩市と対話しますが、彼は自殺未遂の理由を明かしてくれず、
のらりくらりと質問をかわし、意味深な発言をするのみ。
そんな日々を繰り返したある日、
幼いころに家族で行った、沖縄の海岸の写真が送られてきます。
それから、淳美のまわりで、不可解な現象が起き始め…。
淳美の日常に、入り込んでくる不思議なビジョン。
昏睡状態の浩市が自宅に姿を見せたり、
いつの間にかセンシングしていたり、
夢とも現実ともつかないことが起き、どんどん‟境界”があやふやになっていくような…。
謎が解けるクライマックスは、まさに目が覚めたかのように、
幻想的な雰囲気から一変、一気にスリリングな展開を見せます!
何だかこのミスっぽくない?と思ったけど、やっぱりミステリでした。
あ~、そういうことだったか!と。
やや哲学的なミステリですが、人の意識に入る機械というSF要素と、
夢か現実か、という幻想性もあって、
この作品の何とも言えない世界観が、大好きで読み返してしまいます。
過去と記憶と現在と…度:★★★★
現在の淳美の視点で語られますが、
浩市とのセンシング前後は、彼との思い出を振り返りがちなので、
過去の印象深かったエピソードが、よく挟まれます。
漫画の長期連載が、もうすぐ終わる、という時期でもあるので、
彼女の仕事の思い出も、よみがえりがち。
このように、淳美が自分と家族の過去をよく思い出すので、
現在から、ふっと過去の記憶にとぶ語り方で物語は進みます。
しかし、心ここにあらずだけではすまず、
回想に浸っていたら、またはちょっとぼ~っとしただけなのに、
不思議なビジョンや不可解な現象が、入り込んでくるようになって…。
だんだん境界が曖昧な、現実感が薄い、何とも言えない世界観へ突入。
どこかへ運ばれていくかのような雰囲気は、好きな人はすごく好きになるやつです!
結末、こうくるか!度:★★★
衝撃的な謎解きが、一気に進むクライマックスを終え、
苦さと、ほのかな優しさを感じる、静謐な余韻のラストへ…
かと思いきや?
私は最後の3ページの展開には、思わずおおっと驚きつつも、ニヤリ。
好き嫌いが分かれるラストかもしれません。
というか、ガツンと大事件が起きるミステリではないので、
全体的に好き嫌いが分かれる作品なのかも。
ただ、本当に好きになる人はハマり込みます!
このミス大賞の中でも、かなり個性的?
ぜひ、不思議な世界を漂ってみてください!