作者名:降田 天(ふるた てん) 宝島社文庫
2001年、長らく手付かずだった戦前の名家・旧紫峰邸の敷地内から発見された二つの白骨死体。
紫峰家は、すみれの花で彩られた美しい館に暮らす一族だった。
当主の太一郎と、葵・桜・茜の美しい三人の姉妹たち。四人は終戦間近、東京大空襲によって亡くなったはずだったが……。
白骨死体は、いったい誰の死体なのか?
その身元について、かつての関係者に話を聞いて回る謎の男が現れる。
かつての女中や使用人たちの語る、館の主人と三姉妹たちの華やかな生活と日常、そして忍び寄る軍靴の響き。
突然起きた、不穏な事件。彼らの証言は二転三転し、やがて戦時下に埋もれた意外な真実が明らかになり――。
みんなが、何かを隠している…。
丁寧に考え抜かれた、ゴシックミステリ!
耽美な世界観にひたる度:★★★
戦前の名家・旧紫峰邸から、白骨死体が発見されたのが物語の始まりです。
屋敷の主人と3人の令嬢は東京大空襲で亡くなっており、白骨死体が誰なのかは不明。
若い刑事の青年・西ノ森が、当時のお屋敷関係者で生き残っている数名から話を聞き、
過去に何が起きたのかを、明らかにしようとします。
第1部「証言」では、紫峰家の長女・葵に強く憧れていた元女中の女性と、
少年のときに屋敷で働くことになった男性、屋敷の料理人の娘で次女・桜と仲が良かった女性、
屋敷の主人・太一郎から仕事を任されていた木工所の跡取りの4人が順番に当時を語り、
少しずつ、お屋敷の中で何が起きていたのかが判明するのですが…。
戦中のアカ疑惑や、婚約者の出征、使用人のトラブル、激しい姉妹喧嘩、妹の異変などなど、
美しい屋敷に住む、高雅な一族はいろいろな問題を抱えていたようで、
読み進み家族の姿が見えてくるほどに、気になって止まらず。
しかも、事件を調べる西ノ森青年、どうやら刑事ではないみたい…どういうこと?
と思っていたら、残り3分の1で、第2部「告白」に突入し急展開を迎えます!
そこからは、驚いているうちに、一気に謎が解き明かされ、読後は、読む前に想像していたのとは異なる余韻に…。
戦前の名家、美しい3人の令嬢、すみれのステンドグラス、
華やかな婚約パーティー、忍び寄る戦火…。
大戦中の、危うい空気のなかで生まれた秘密と、それを解こうとする謎の若い男。
何ともそそられる、耽美なゴシックミステリの気配がします。
現代の生き残った関係者たちの、落ち着いた暮らしが描かれる中で、
彼らの過去の証言は、何とも不穏で謎めいて、
語られるすみれ屋敷の住民は、妖しく美しく魅力的です。
過去について語るとき、証言者たちも、自分の人生の色濃かった時期を思い返し、
心が当時に帰っているんですね。
語るたびに、過去が現在に追いついてくるようで、不思議な魅力の作品でした。
つぎつぎに驚きの事実度:★★★★
どの証言者も、秘密を隠している!
それは、自分だけの美しい思い出にしたいからだったり、
当の本人もよく分かっていなくて、話しづらかったり、
誰かをかばうために、違う証言をしていたり…。
それでも、徐々に秘密のベールが剥がされていくのですが、どんどん意外な事実が明らかに!
屋敷について調べる青年の正体も意外だし、
そもそもいちばん謎を解きたがっているのは誰なのか、
それが分かったときも、じゃあ根本的に思い違いをしていたんじゃないか!と驚かせるものです。
秘密と愛の物語度:★★★★★
タイトルや紹介文を読んだ印象で、ひたすらおどろおどろしい、どろどろした秘密が隠されているかと思ってました。
まぁ、どろどろはしているんですけど、胸が悪くなるような恐ろしい一族の話、とかではありませんでした。
壮絶な、悲しい愛ゆえの秘密、ですね。
怖~い秘密を求めている人には、物足りないかもしれませんが、
人間ドラマが重厚なミステリとして、面白いです。
語られるたびによみがえる過去は、ときに美しくときに悲しい。
美しい屋敷と姉妹、隠された悲劇、このワードに惹かれる人に、おすすめです!