作者名:恩田 陸 徳間文庫
建築学部に通う大学生の平口捷は、姉と二人暮らしの平凡な生活を送っていた。そんな彼の前に若き天才美術家・烏山響一が同級生として現れる。カリスマ的な雰囲気があり取り巻きが絶えないが、なぜか響一の方から捷に近づいてくる。そして、届いた招待状。訪れた熊野の山奥には、密かに作られた野外美術館が…。奇怪な芸術作品は、見る者を悪夢に引きずり込む。幻想ホラー大作。
美しい文章でつづられる、悪夢の楽園。
迷い込んだ若者たちが、深奥で目撃するものとは?
引き込まれる不気味さ度:★★★★★
語り手となる人物は何人かいて、視点が切り替わりますが、
メインの登場人物の一人が、建築学部に通う大学生・平口捷(さとし)。
母亡きあと、完璧な主婦となったしっかり者の姉・香織と比べると、
美術好きで、のんびりした感じのある青年で、自分を平凡と称しています。
しかし、あるとき同じ大学の、すでに若手天才美術家として有名な烏山響一に話しかけられ、
とまどい、少しおびえつつも、彼に興味を持つように。
その後、大して親しくもないのに、彼に特別な野外美術館ツアーに招待され、
悩みながらも赴くのですが…。
そこで、恐ろしい体験をすることに。
このツアーには、美大生の香月律子も招待されており、
響一をいまいち信用しきれない彼女も、捷とともに事態に巻き込まれます。
そのほか、行方不明になった友人・黒瀬淳を、
彼の婚約者と探す、星野和繁も、物語に合流。
謎多き美術家・烏山響一と、彼の関係者たちは、
一体何を企んでいるのか…。
徐々に不気味さを増す物語に、引き込まれていきます。
美しいのに恐ろしい度:★★★★
作中、アートにかかわる人間が何人か出てきますし、
野外美術館で、捷たちを待っていたのは、
誰も見たことがないような、奇抜かつ巨額のお金がかけられた、
インスタレーション(室内や屋外にオブジェなどを置いて、
空間を変化させ、場所や空間そのものを作品として表現するもの、だそうです。)
美しい芸術の世界に踏み込み、
繊細な感性の登場人物たちが出てきて、
上品な文章で綴られるのに、
作品全体に漂うのは、不安感と不気味さ。
この独特なおどろおどろしさは、恩田作品らしくていいなぁと思います。
後半加速する混乱度:★★★
物語は、大きく分けて、それぞれの人物の背景を描く前半パートと、
実際に「禁じられた楽園」に赴く後半パートに分かれます。
現実離れした体験を、より読んでいて楽しめるのは後半ですが、
じわじわと、不吉な影が忍び寄るかのような前半も、
不思議で意味深なエピソードがあり、
幻想的な恐怖感を味わえて、なかなか…。
丁寧に繊細に描かれたストーリーですが、後半は加速し、
クライマックスでは、ある人物が活躍…そして、意外な結末!
山奥の芸術作品は、恐ろしいダンジョンのようで…。
じわじわ来る、幻想的なホラーが読みたい人におすすめです。