作者名:太田 忠司 文春文庫
月読―それは、人が亡くなると現れる“月導”に込められた死者の最期の思いを読み取る特殊能力者だ。投身自殺した女子大生の月導に残されていた殺人の告白。それは若者たちの錯綜する思いが招いた悲劇だった―。表題作など4篇収録。月読・朔夜一心が活躍する傑作ファンタジック・ミステリー。
美しくも悲しい、不思議な物語が再び楽しめる!
月導の謎と、殺人事件の謎が絡み合う、秀逸なミステリ短編集です。
やはり魅力的な世界観!度:★★★★★
ある地方都市の、資産家の家で死体が発見され、事件に関わった少年少女は翻弄されます。
ついには、他の殺人事件まで絡む事態に発展。
そんなとき、謎めいた月読の青年・朔夜一心が、
特殊能力と、鋭い洞察力で、事件を解決に導きます。
これが、長編「月読」のストーリーで、
本作「落下する花~月読~」は、朔夜の活躍を描いた、連作短編集。
人が死ぬと必ず出現する、さまざまな姿をした「月導」。
月導に込められた思いを読み解ける、唯一の存在である「月読」。
基本的に普通の世界ですが、この2つの存在だけが、現実と異なり、
ファンタジックな、独特の世界観のミステリ小説!
「月読」に出ていた、ある人物が登場しますが、
世界観や設定は、最初に収録されている「落下する花」を読めば分かりますし、
どの話も独立しているので、読んでなくても大丈夫です。
「月読」で好きになった人には、ぜひ読んでもらいたいですし、
本作を読んで、世界観が気に入った人は、長編に手を出してみてはいかがかと。
個人的には、月導にすごく惹かれるので、
もっとシリーズ出してほしいくらいです!
思いが錯綜する悲劇度:★★★★
短編ですが、どれも人間の悲哀がこもっている、ずっしりしたミステリです。
月導を月読に読んでもらい、故人の亡くなる直前の思いを明らかにするには、
50万円かかりますし、読み取った内容で、月読は決して嘘をつかず、
ときとして、大変な事態になることも。
それでもわざわざ依頼してくる時点で、残された人間にはいろいろあって…
どの話も、人間の思いが絡み合った物語で、読み応えあり!
1話目の「落下する花」では、女子大生が突然飛び降り自殺を図ります。
彼女の行動には、恋人がひき逃げされた事件が関係しているようで…。
‟月読に読んでもらうことに、意味はあるのか?”という疑問に、
いきなり突っ込む話になっています。
2話目の「溶けない氷」は、伯母に言われたとおりに、月読・朔夜を呼んだあと、
つぎつぎトラブルに見舞われる女性が主人公。
伯母は自分の月導のほかに、もう1つある人物の月導を所持しており…。
人生の残酷さと、切なくも美しい思いが描かれていて、
個人的に、好きな話でした。
3話目「般若の涙」は、ひき逃げされた妻が遺した月導で、トラブルが。
家族は苦悩しますが、朔夜が月導を呼んだことで、
事態は意外な方向へ…という話。
月導をどう扱うか、という問題が扱われており、
ミステリとしても面白かったです。
4話目「そこにない手」は、男性が月導を握った状態で死亡しており、
奇妙な状況から、衝撃的な真相が明らかになる話。
殺された男性は、過去に朔夜に仕事を依頼したことがあるのですが、
事実と食い違う発言をしていて…。
死亡した男性の月導の、インパクトがすごい。いちばんドロドロの話かも。
以上4つの、世界観をいかしたミステリは、ほろ苦くて心に残ります。
月導がたくさん!度:★★★
長編「月読」にも、いくつかの個性的な月導が登場しましたが、
本作も、たくさん出ます!
色々な月導と、込められた思いを読めるのが、
世界観を気に入っている人には、なかなかたまらない…。
自分が遺す月導も、こうであってほしいな、と思えるような美しいものや、
なかなか気づかないような、素朴で大人しいものや、
とても個性的で、インパクト抜群のものまで、多様です。
美しいから素敵な思いが残っているわけではなく、
大物が遺したから派手なもの、という訳でもなく、
見た目も思いも、予測不可能。
それゆえに、朔夜が月読として読むシーンが待ちきれず、
気になって、ぐいぐい読み進めてしまいます。
どんな月導が出てくるのか、どんな思いが込められているのか。
事件の真相と同じくらい、気になってしまう。
少し変わった設定の、個性的なミステリが読みたい人におすすめ!