作者名:フェルディナント・フォン・シーラッハ 創元推理文庫
ふるさと祭りで突発した、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社にかぶれる男子寄宿学校生らによる、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こした悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。麻薬密売容疑で逮捕された老人が隠した真犯人。弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位の『犯罪』を凌駕する第二短篇集。
犯罪者の姿を簡潔に、しかしこの上なく鮮明に描いた衝撃作「犯罪」。
シンプルで淡々としつつも、過不足なく表現する文章は変わらず、物語の多彩さが増した短編2作目!
変わらぬインパクト度:★★★★★
ドイツの高名な弁護士であった作者が、自身の経験をもとに創作した物語を収録した短編集「犯罪」は、
冷静な視点で、淡々とした静かな文章で書かれているにも関わらず、
段落が変わった瞬間、とんでもない展開が待っていて、
インパクトのすごい、衝撃的な作品でした。
短い話の中に、悪人であると言い切れない犯罪者たちの生き方が、
生々しく、胸に迫る筆致で描かれており、非常に印象的な物語ばかり。
なので、書店で第2短編集「罪悪」が並んでいるのを見た瞬間、速攻購入!
1作目が傑作だったので、どうかな~とドキドキしながら読んだんですけど、
インパクトとクオリティーは変わらず、本作もとても楽しめました。
より短くより洗練されて…度:★★★
「犯罪」が11作、「罪悪」が15作。
しかし、本の厚みとしては、若干「犯罪」の方が厚いくらいです。
「罪悪」は、危険な男の企みから始まる「解剖学」や、少女に起きた悲劇「寂しさ」、
やるせなさ極まる「子どもたち」など、すごく短い話もいくつか収録されているんですね。
しかし短いからと言って、印象が薄いわけでは決してなく、
若い男女の奇妙な運命を描く「遺伝子」は、2人の人生が凝縮されて余韻が…。
平凡で満たされていた主婦に起きた変化の、他人事でなさが読者に迫る「欲求」は、
個人的に忘れられない話です。
自らの商才で富を築いた物静かな男性の、他者には分からない苦しみを描いた「家族」も、
じーん、とくる人が多いんじゃないでしょうか…。
このように、特に短い話も、余分なことは書かない、と言わんばかりで洗練されているなぁ~と、
読んでいてひたすら感心してしまいました。
少し長めの話で素晴らしかったのが、「間男」「雪」「鍵」「清算」。
危ない遊びに手を出して、関係が変化していく夫婦の愛のカタチが心に残る「間男」、
温かい結びつきと、ままならない人生の対比が素晴らしい「雪」も好きな作品です。
家庭内暴力の悲劇と裁判のあり方が、生々しく描かれた「清算」は、
本作のトリを飾るクオリティーの物語!
「罪悪」は、「犯罪」よりもブラックな笑いが組み込まれているのが特徴的です。
「鍵」は、あぶないクスリの駆け引きをする2人の男がトラブルに巻き込まれ、
てんやわんやの事態になる話ですが、容赦ない展開でありながら、思わず笑ってしまう部分が。
こういうブラックな笑いの作品と、思わずうなってしまうような悲惨な作品まで収められている、
ボリュームのわりに、読後の満足感が高い本でした。
どっちが好き?度:★★★★
より1つ1つの事件と、犯人の人生を掘り下げて描いたのが「犯罪」、
テンポよく簡潔に、しかしインパクトはそのままに描いているのが「罪悪」、
という印象を抱きました。
どちらの短編集が好きかは、なかなか迷うところ。
ぜひ、両方読んで、どちらにお気に入りの作品が多かったか、比べていただきたい!
どちらも短い本だから、すぐに読める…と言いたいところですが、
次は何が起きるんだろう、とハラハラしながらじっくり読んだので、
ボリュームのわりに、読むのは遅かったような…。
すごい本を読んだな、という読後の満足感は前作に全然負けていないです!
長編は「禁忌」を読んでみたのですが、私は短編集の方が楽しめました。
「コリーニ事件」とか、他の長編も読んで比べてみたいですねぇ。
相変わらず、これ全部実話そのままではないのか、と疑いたくなるリアリティー!
刺激的な読書体験をしたい人に、おすすめです。