作者名:沢村 浩輔 創元推理文庫
海軍提督バロウズ卿が、“王国”周辺の海域を荒らす海賊連合“南十字星”を率いる謎の男リスターに誘拐された。提督救出の密命を受け、“南十字星”へ潜入したアラン・クリフォード大尉は、海賊たちの拠点の島で殺人事件に遭遇する。リスターに指名されて犯人捜しに乗りだしたアランだが、海賊たちは次々と殺されてゆく。若き大尉は己の剣と推理によって事件を解決できるのか?
テンポの良い、エンタメ感満載のミステリ!
前半の海洋冒険、後半のミステリ、どちらが好き?
ワクワクする海賊もの度:★★★★
舞台は、海賊が大海原を駆け、略奪によって富をなす世界。
バロウズ提督の活躍によって、王国の艦隊が財宝の奪還に成功して以来、
彼は海賊退治の英雄として有名。
最近「南十字星」と名乗る、いくつかの海賊団からなるグループが台頭してきたのを受けて、
再び、バロウズ提督が討伐に乗り出すはずだったのですが、何と彼が誘拐されてしまいます。
剣の達人である軍人・アランは、提督救出のために、
伝説の海賊の息子・バートを名乗り、海賊船の船長として南十字星に潜入することに!
前半部分は、海賊に化けたアランが、
隠された財宝を探し出し、南十字星に接触しようとする海洋冒険小説で、
南十字星に加わる、個性的かつ歴戦のツワモノである海賊たちの、
おのおのどんな性格なのかが、読み取れるシーンが満載です。
そして海賊たちの隠れ家「海賊島」にたどり着いた中盤に、いきなり殺人事件が!
あ、この人がまず死んじゃうの?という人物が犠牲になり、
しかもその後も、百戦錬磨の海賊が、つぎつぎ殺されてしまいます。
成り行きで探偵役をすることになってしまったバートは、必至で推理をしようとするのですが…。
彼はなかなか賢いですけど、抜けてる部分もあり、名探偵とまではいかず苦戦。
この連続殺人、何とも不可解な状況が続いていて、
特に犯人の動機が分からない!
メンバーがメンバーなので、トラブルとアクションには事欠かず、
こうして、「あれ?冒険小説読んでたら、何かミステリになった?」という、
変わった読書体験を楽しむことになったのでした(笑)
魅力的な海賊度:★★★★
「南十字星」に名を連ねるのは、大物と言われる海賊ばかり。
まず、この海賊連合を作り上げた、カリスマ性あふれる男・リスター。
その魅力と頭脳と人望で、曲者ぞろいの海賊たちを率いています。
彼に誘われた船長は、バートを除いて4人。
大男で、これぞ海賊という風貌のグレンヴィル。
粗野でバートにも食って掛かりますが、そんなに悪い奴ではないらしく、
喧嘩はいつの間にか酒飲み勝負へ…そして酔いつぶれる船長を運ぶ苦労性の船員たち…。
紅一点で銃の名手がジーナ。
美人で男勝りな女海賊で、彼女の手製のお酒は、もはやテロ兵器です(笑)
東洋人の細身の青年で、割と友好的なのがバラクーダ。
東洋人という点と、普通に結構いいやつ?という性格で、好感度高し。
最後が、隻眼で静かだけれど迫力がある、カーティス。
訳ありの生い立ちで、いちばん冗談通じなさそう。
以上4人、極悪非道の海賊ですが、読んでいて魅力も感じてしまう面子です。
ああ、でもこの中から、犠牲者が出るですよね~。
そこは、読んでてちょっとショック。
黒幕がまたワル!ゲスい、ゲスいです…!
夏に読みたい爽快さ!度:★★★
海賊がつぎつぎ殺されてしまいますが、爽やかさも感じさせる作品です。
やっぱり、大海原を船で…っていうのが、いいですね!
頭の中でイメージして映像化すると、爽快感アップ。
なかなか海に行けない時は、せめて海が出る本を読もう…(泣)
バートの相棒・元天才俳優のソープの存在も大事です。
いっそ、すがすがしいナルシストで(海賊も呆れる)、確かに二枚目なのに、
よくバートとコント見たいなやり取りをする(笑)
この人がいなかったら、もう少し重い作品になっていたかも?
個性的な海賊たちに押されて、主人公の影も霞んだかもしれないし(汗)
連続殺人と緊迫のアクションのあと、最後は一気に盛り返します!と言わんばかりの、
爽やかなラストシーンは、とても好きです。
デビュー短編集「夜の床屋」は、最初は正統派ミステリだったのに、
途中から、この話はどこに行くの⁉という感じだったので、
本作の海洋冒険×ミステリという変則構成にも、何だか納得。
大海原を駆け、財宝の眠る島へたどり着き…大団円かと思いきや連続殺人!
エンタメ色の強い変わったミステリは、いかがですか?