作者名:田中 啓文 河出文庫
地獄一の名探偵は閻魔大王から極秘の事件の調査を依頼されるが?地獄で出会った男女の逃避行の行方は?無実の罪で地獄に落ちた男がすべてを野球に託した末に?富士の裾野で演習中の戦車が迷い込んだ先は?…奇想の本格ミステリ他、地獄を巡る八つの情景。古典落語の名作が笑いの天才の筆で甦る。
探偵もの、人情もの、スポコンもの、落語にSF…。
地獄が舞台だと、こうなってしまうのか?
いや、田中作品だからな気がする(笑)
どんなジャンルも地獄全開!度:★★★★
短編集「イルカは笑う」では、
さまざまなテーマが異なるシュチュエーションで描かれていましたが、
本作では、ジャンルは違えど、すべてが地獄でのお話!
どの話も、「地獄八景○○戯」(○○のたわむれ)というタイトルです。
「探偵戯」は、地獄で発生した、不可解な猟奇殺人事件を、探偵が捜査するハードボイルドもの。
地獄の設定を活かしていて、面白かったです。
ただし、生きている我々が、謎を解こうとするのはやめた方がいいです…
なんじゃそりゃ!となるので。
「人情戯」は、上方落語を、うま~い具合に地獄チックにしたもの。
「男女戯」は、切ない2組の心中…なんですけど、オチはそうくるんかい!となりました。
「笑芸戯」は、グロい○○新喜劇(笑)他にもパロディネタあり。
「白球戯」は、冤罪事件とスポコンもの。笑えばいいのか、感動すればいいのか…。
「兵士戯」は、とんだ災難からの黙示録?恐ろしきSF。
「獣人戯」は、個人的に、悪ふざけ第1位(笑)いちおう時代劇かな?
「科学戯」は、星新一のショートSFパロディ。
以上、6つの遊び心に満ちた「ブラックユーモアこれでもか作品」が楽しめます!
グロと笑いと暴走と…度:★★★★★
地獄が舞台なので、グロいです。グロいけど、妙にコミカル。
恐ろしい世界観で、どの話でも笑わせるってすごいなぁ。
お気に入りなのは、まず「探偵戯」。
‟血の池地獄で、吸血鬼が餓死したのはなぜか?”など、他では読めない珍事件&とんでも真相。
色んな惑星で、妙な事件に遭遇する「宇宙探偵ノーグレイ」という田中作品がありますが、
あれも、その惑星の特色を活かしていて面白かったです。
こういうのも、上手い作家さんなんですねぇ。
「白球戯」は、冤罪事件の謎解きも、亡者たちの野球チームも、ぶっとんでいて良かった!
「獣人戯」の暴走っぷりに、いちばん笑いました。
最初の‟ば”の連続、あのメロディーか…!
色んな方面から、怒られなかったのか、心配になる作品(笑)
各作品の、元ネタ探すのも、面白かったです。
基本コメディチックで、笑ってしまうシーンがたくさんありますが、
同時に地獄の描写もグイグイ来るので、
どんなに登場人物が楽しそうにしてても、ここに住みたいとは思わないですね。
やっぱり地獄は地獄!
印象に残りすぎ度:★★★★
「人情戯」は、短いながらに、うまいことやったなぁ感がありました。
「男女戯」が、いちばん切ない話。名前には、全然気が付かなかった…。
「笑芸戯」は、残酷な冒頭から、急にコメディ全開に!
あの番組も、ネタにしちゃった(笑)
「兵士戯」が、最も笑えないです。嫌だな~、こんな事態に巻き込まれたら。
「科学戯」は、何だか星新一ショートSFみたいだなと思ったら、やっぱりパロディだった!
博士の名前からして、あれ?と思ったんですよ…。
‟すべての短編がとんでもない話”で、田中作品はずば抜けている気がします。色んな意味で。
「イルカは笑う」「地獄八景」「宇宙探偵ノーグレイ」の3冊のうち、
1冊読んで楽しめたら、全部読むのをおすすめします!