作者名:森 絵都 文春文庫
才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり…。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。
1つ1つの話が、違う意味でじ~んとくる!
最後に意外な結末と、深い余韻をもたらす、6つの物語。
どの物語が、いちばんあなたの胸を打つでしょうか。
読みやすい受賞作度:★★★★
この作品は、第135回直木賞受賞作。
直木賞というと、人々の心の動きをとらえた優れた作品が受賞して、
大作が多いイメージかと。
この「風に舞いあがるビニールシート」は、全体としては約330ページで、
50~80ページほどの、6つの短編を収録。
語り手となる登場人物が、身近にいそうな人々だし、
読みやすい文章で50ページくらいなので、とても読みやすいです。
しかし、その短い物語の1つ1つが、とても印象深い!
ひとつとして、ふ~ん、こんな話か…で済ませられない内容になっています。
どれが最も響くかは人それぞれ?度:★★★★★
どれも読者の胸に迫ってくるような話ですが、
最も心に響いたのは、どの話か…と聞かれたら、
読んだ人の年齢や性別、職業や暮らし方などで分かれそうです。
大学夜間部に通う、多忙なフリーターの男性が、
代筆の達人の助けを得ようとする「守護神」と、
クレーム処理に向かう会社員たちが、青春の約束を忘れまいとする「ジェネレーションX」は、
働き盛りの男性が、特にグッとくるかも。
仏像修復師の男性が、ある仏にのめり込む「鐘の音」も、そうかな。
温かさと爽やかさがある「守護神」と「ジェネレーションX」は、
わたしも、けっこう好きな話でした。
同じ主婦としてうっ…ときて、忘れがたい話となったのが、「犬の散歩」。
子どもがいない夫婦が、あるきっかけで、捨て犬の世話をするボランティアを始め、
変わっていく話です。
適当に生きている気はないんですけど、もっとやれることがあるかなと考える…
ちょっと耳が痛いようなエピソードが(汗)
そして、表題作「風に舞いあがるビニールシート」!
国連難民高等弁務官事務所で働く男女が主役なだけあって、
収録作のなかで、もっともスケールが大きな話。
主人公が、別れた夫に対する思いを振り返り、語られていく内容は、
なかなか壮絶…何回読んでも、ウルっときちゃいます。
これは多くの人が、心を揺さぶられそう。
読後、どれがいちばん心に残ったか、それは何故か考えてみてもいいかもしれません。
お気に入りを読み返す度:★★★
ウルウルしたのは「風に舞いあがるビニールシート」で、
「犬の散歩」もすごく印象に残ったんですけど、
いちばん読み返しているのは、
上司のカリスマ女性パティシエのせいで、
クリスマスイブに、スイーツの器探しに奔走する羽目になる女性を描いた「器を探して」。
年が近い同性の話で、才能あふれる上司の黒子に専念することになった顛末や、
仕事と恋愛のリアルな悩み、お店やケーキの魅力に、つい引き込まれてしまいます。
‟仕事と恋愛”で悩みながらも、この人は心底ほれ込んでいるケーキを選ぶだろうな、
と思っていたら、そんなに単純ではない、あらら!な話。
どの話も、痛みや苦さを感じながらも、
‟結局、自分でこれを選ぶんだ”と進む人々の、懸命に生きる話で、
何だかエネルギーをもらえました!
人生でふと感じる、これでいいのか?という疑問。
迷ったときに、何らかの影響を与えてくれる作品かもしれません。