作者名:スティーヴ・ハミルトン ハヤカワ・ミステリ文庫
八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイクル。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に……
非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞、バリー賞、全米図書館協会アレックス賞など、世界のミステリ賞を獲得した話題作!
このミステリーがすごい!2013年版海外編。
2012年週刊文春ミステリーベスト10海外部門第1位。
可愛い表紙に騙されることなかれ!
クライムサスペンスと、切ない恋物語が融合した傑作です。
切ない主人公度:★★★★★
主人公・マイクルは、8歳で巻き込まれた事件で生き残り、
それが原因で、まったく喋れなくなりました。
その特殊な事情から、地元では「奇跡の少年」と呼ばれ、有名人。
酒屋を営む伯父と暮らしながら、ひたすら孤独な日々を送っていましたが、
彼には2つの大きな才能があり、そのことがきっかけで、人と関わりだします。
しかし、2つのうち1つは、金庫破りという許されない才能で…。
この物語は、現在のマイクルが、今の状況になるまでを説明するために、
自らの過去を語るという形で、進んでいきます。
少年期から、ある大きな出会いがあった高校生までのいきさつと、
金庫破りとして仕事を依頼されるようになってからのエピソードの、2つのパート。
…金庫破りの話のときも、マイクルは17~18歳なんですよ。壮絶な人生だなぁ…。
容姿も優れていて、才能ある少年なのに、こんな激動の人生を歩まざるを得なかった彼。
何とか最後は幸せになれるよう、応援せずにはいられません!
金庫破りの迫力度:★★★★★
こんなに犯罪の知識を書いちゃって、いいのかな?
と心配になるくらい、リアルな金庫破りのスキルが描かれています。
まぁ、特殊な感覚が必須というのもよ~く分かるので、
知識があってもどうしようもないか…と納得しちゃいましたけど。
金庫破りのシーンは、時間制限もあって、つねに極限の緊張感に満ちており、
迫力の描写で、読者もハラハラハラハラ…
アクションシーンじゃないのに、心臓に悪い!でも面白い!
この作品は、書店で見かけたときに、
何か賞を色々受賞しているなぁ、主人公が金庫破りは読んだことないなぁ、
と少し興味を持って買ったのですが、予想以上にドキドキする作品で、買ってよかったです。
孤独な魂を持つ少年が、許されざる才能を持っていて、
それを武器に生きていかざるを得なかった…というのが本当に切なくてたまらなく、
マイクルが心配で、もう読むのが止まらないったら!
クライム・サスペンスの中でも、お気に入りの作品です。
美しいラスト度:★★★
この作品、傷を抱えた少年と少女の、恋物語も非常に重要。
17歳のときに出会い、マイクルの人生を変えることになってしまう少女・アメリア。
2人の、才能を生かした個性的なやり取りは、とても印象的でした。
彼らが心を通わせるシーンと、物語のラストは、たまらん素敵さです!
マイクルとアメリアだけでなく、後半一緒に仕事をするようになる、
色々抱えた若者たちも、危うくて魅力的。
犯罪の世界に生きる若者たちの、悪らしく振舞いつつも、どこか必死な姿が胸に迫ります。
クライマックスは、怒涛の展開で、読みながら唖然…。
美しい青春物語かつ、スリリングなサスペンスミステリで、
女性や学生にも読んでもらいたい、ウルっとくる犯罪小説でもありました。
特殊な事情を抱える孤独な少年の、魂の救済の物語。
読んでいるうちに、どんどんのめり込む面白さです!