作者名:ジョン・ハート ハヤカワ・ミステリ文庫
少年ジョニーの人生はある事件を境に一変した。優しい両親と瓜二つのふたごの妹アリッサと平穏に暮らす幸福の日々が、妹の誘拐によって突如失われたのだ。その後まもなく父が謎の失踪を遂げ、母は薬物に溺れるように……。少年の家族は完全に崩壊した。だが彼はくじけない。ただひたすら家族の再生を信じ、親友と共に妹の行方を探し続ける。
「あの子を見つけた」大怪我を負った男はジョニーに告げた。「やつが戻ってくる。逃げろ」少年は全速力で駆けた。男の正体は分からない。だがきっと妹を発見したのだ。アリッサは生きているのだ。ジョニーはそう確信する。一方、刑事ハントは事件への関与が疑われる巨体の脱獄囚を追っていた。この巨人の周辺からは、数々の死体が…。ミステリ界の新帝王が放つ傑作長篇。早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品。
少年の魂の戦いを描いた、傑作ミステリ!
感動のラストが待ちうける、英国推理作家協会賞受賞作。
少年のサバイバル度:★★★★★
13歳の少年ジョニーの人生は、一年前に激変し、幸福から大きく遠ざかってしまいました。
双子の妹アリッサが誘拐され、その後も見つからず、
父もそのしばらく後に失踪してしまい、
母はドラッグと酒に溺れ、お金も権力もあるけれど人でなしな男の言いなり。
現在のジョニーを取り巻く環境は、あまりに絶望的です。
しかし、ジョニーが選んだのは、非行に走ることでも引きこもることでもなく、戦うこと!
先住民の魔術の本を読みこみ、ときに儀式めいたことをして、
自分を戦士とすべく行動します。
近隣の怪しい人物をマークするなど、自分なりの捜査を続行し、妹を見つけだそうと奮闘。
強い子だけれど、悲しい(泣)
戦い続けていないと、飲み込まれてしまうと言わんばかり。
事件を担当した刑事ハントを含め、周囲の大人も、見かねて苦言を呈するけれども、
彼の行動が事態を動かし、驚きの真実が明らかになります。
ジョニーは、ある日大けがをした男性を発見するのですが、
彼は「あの子を見つけた。」「連れ去られた少女。」という言葉を残し死亡。
妹アリッサのことに違いない!と確信したジョニーは、
今まで以上に捜索と調査に躍起になります。
その現場にいた、脱獄囚の大男フリーマントルは、この物語にとって、とても重要な人物。
男性の死亡以降、ジョニーや母キャサリン、ハント刑事のまわりで、
のっぴきならない事態がつぎつぎに起き、
クライマックスでは驚愕の真相が明らかになるのですが…。
よく考えられた作品だったな~と、読後しみじみ思いました。
ジョニーの変わった知識も、ある局面でとても役に立つし、伏線が随所にはられているし、
ピースがカチッと合うように丁寧に作られた作品です。
各々の戦い度:★★★
娘を失い夫がいなくなってしまったことで、精神のバランスを崩す母・キャサリン。
誘拐事件を解決できず、ジョニーとキャサリンを気にせずにはいられない刑事・ハント。
事件がきっかけで、多くの人が傷を負い迷走しています。
そして、クライマックスでは、意外な人物が苦しみを抱えていたことが明らかに!
事件にかかわった各々が、自分の人生・家族・愛情を取り戻すまでの、
長く苦しい戦いを描いていて、
ミステリとしても傑作ですが、人間ドラマを描いた作品としても秀逸です。
命はめぐる度:★★★★
いくつかの事件も、それに伴う結果も、すべてが一つの環だったのだろうか?
人生に起きるすべての物事は、何らかの力によって、
人間も気づかぬうちに、帳尻が合わされているのだろうか?
ラストまで読むと、そんな風に考えさせられる作品でした。
読んでいるうちに、こちらまで苦しくなってくる、痛みと悲しみの物語ですが、
読んだ後は、あたたかな希望が感じられて、胸がいっぱいに…。
辛く苦く、でも間違いなく傑作な、少年の成長物語です!
読後、タイトルの本当の意味が分かります。