作者名:ブライアン・W・オールディス ハヤカワ文庫SF
〔ヒューゴー賞受賞〕大地をおおいつくす巨木の世界は、永遠に太陽に片面を向けてめぐる、植物の王国と化した地球の姿だった! 人類はかつての威勢を失い支配者たる植物のかげで細々と生きのびる存在に成り果てていた……。イギリスSF界を代表する巨匠が、悠久の時の果てにSF的想像力の精髄を展開する名作!
襲い掛かる植物から身を守り、何とか生存している人間たち。
力を失った人類に、未来はあるのか?傑作SFサバイバル小説!
圧巻のサバイバル世界度:★★★★
地球は自転を停止し、地上には永遠の昼と夜が訪れるようになった未来。
昼の熱帯エリアでは、巨大なベンガルボダイジュが大陸を覆い、
生存のための進化をとげた、さまざまな種類の食肉植物に支配されています。
動物はほとんどが絶滅し、人間は矮小化して細々と小集団で原始的な暮らし。
主人公の少年・グレンは、熱帯の植物たちの活動が旺盛なエリアで、
仲間たちとグループを作り、サバイバル生活を送っていました。
しかし、グループの子どもたちが独立した直後、トラブルに見舞われ、
自分勝手で反抗的なグレンは、追い出され…。
その後の、驚きに満ちた、恐ろしい旅路が描かれます。
植物に支配された世界、というと美しく穏やかなイメージですが、
この世界では、シャレにならないサイズの、隙あらば人間を襲う植物だらけ!
実際、物語序盤から、大人も子どもも容赦なく餌食にされます(汗)
最初読んでてびっくりしたわ…。
自然の摂理…なんでしょうけど、怖い怖いこんな未来!
人間たちも、シンプルな思考しか出来なくなっていて、人類大丈夫か⁉と戦慄。
過酷なサバイバルとたくましい生命たち、人類の生きる道を描いた、
ハラハラする壮大なSF作品でした。
恐るべき植物度:★★★★★
ダンマリという不完全な知覚を持つ果実をつける、笛薊(フエアザミ)。
二枚の四角い顎と、たくさんの長い歯だけの日陰罠(ヒカゲノワナ)。
太陽光線を集め、莢をレンズ代わりにし熱で攻撃してくる、火壺(ヒツボ)。
最初に主人公たちが住んでいたところだけでも、このような危険な植物がうようよ。
物語冒頭から、継続的に襲い掛かられます。
グレンが、さまざまなアクシデントに見舞われ、たどり着いたエリアでも、
根が強力な触手に進化した、凶暴な地獄柳(ジゴクヤナギ)や、
人間を木の蔓につないで支配する、ポンポンの木など、恐ろしい敵が…。
謎の鳥人や、どう猛なトラバチといった、植物以外の敵も!
しかし、ひたすら食肉植物や他の生き物に襲われますが、
ただサバイバルの戦いをするだけの作品ではないのです!
途中から、ある生物がグレンとともに行動するのですが、これが物語のキーマン的存在。
人間が歩んだ知性の歴史とその顛末が明らかにされ、
徐々に、地球に何が起き、また起こりつつあるのか判明し…クライマックスは意外な結末に。
とにかく壮大で、生存のためのたくましい進化に圧倒されます!
恐ろしいけれど、環境に合わせて独自の形態をとった植物にちょっと感動…。
宇宙空間にまで進出している生き物ツナワタリには、神秘的な物すら感じます。
人類のビジョン度:★★★
地球環境が変化し、文明を失うにつれて、単純な思考しかしなくなった人類。
主人公グレンも、他の子どもより知恵を見せますが、
より深く掘り下げて考えることは出来ません。
しかし、サバイバルの中で出会ったある生物によって、
半ば強制的に知識を与えられることに。
物語のラストで、ついに自分で考え自分で選択を行うグレン。
最後1ページの彼の台詞に、思わずニヤリとしてしまいました。
ひたすら、賢いものに判断をゆだねてしまう傾向がある登場人物たち。
適応に合わせて失ってしまうものと、
シンプルに変化していく人類の歩む道について描いた、
考えさせられる作品でした!
植物と人間の戦いを描く作品として、「トリフィド時代」もおすすめです。
恐ろしくて不思議な植物、地球と人類の謎、予想外の出会いが待つ旅!
美しい表紙も魅力の、名作SF小説です!