作者名:クレア・ノース 角川文庫
私はケプラーと呼ばれる“ゴースト”――他人に触れると、その身体に乗り移ることができる。
ある時、身体を借りていた女性が、地下鉄の人混みで狙撃された。
私は咄嗟に近くの人へ飛び移り、やがて狙撃犯の身体を乗っ取った。
この男は何者で、なぜ私を狙う?
答えの鍵は、かつての宿主達にあるらしい。
私は、長い長い人生を思い返しながら手がかりを辿ってゆく――。
全世界、あらゆる時代を舞台にした、切なさ極まるSFサスペンス!
時代をめぐる、人の想いがめぐる。
特殊設定の妙手、クレア・ノースはいかが?
時代をめぐるスケール感:★★★★★
ケプラーと呼ばれるゴーストは、ある時代で男に殺されます。
その瞬間に男に「接触」し、乗り移り、
人間からゴーストという存在になってしまったのです!
ゴーストになったのがいつかは、はっきり書かれていません。
1792年のカイロのエピソードがあり、何百年も存在していることは間違いないようです。
長い長い時間を、さまざまな体に乗り移りながら、さまよい続けたある日、
明らかに宿主ではなくゴーストとしての‟私”を狙う、謎の組織に狙われることに。
すべてのゴーストを殺そうとする謎の組織に追われる間、
色々な過去のエピソードが出てきます。
ロマノフ王朝のロシアの令嬢、カイロの権力者…
さまざまな時代で本人になりきり、関わった人たちとの‟愛″ が語られるのですが…。
1つ1つのエピソードが、印象深く、波乱に満ちています。
たまに、”げっ!”となる恐ろしいエピソードも。
「長く生きていれば色んな事がある」とは言いますが、
何百年も存在するゴーストの経験談は、半端ないです!
存在の切なさ度:★★★★★
主人公ケプラー以外のゴーストも、何人か登場します。
ケプラーは昔、乗り移るのに理想的な人間の「不動産エージェント」をやっており、
他のゴーストとも関わるのですが、おのおのに美学とこだわりがあるみたい。
お尻がしまってないと乗り移りたくないとか…わがままなのもいるし。おいおい。
ケプラーは短期間でどんどん体を変えて、
なるべくその人の人生が悪くならないようにするのですが、
長期間居座って人生乗っ取るゴーストもいるから、たまったもんじゃないです(汗)
ゴーストに感情移入するけど、
滅ぼそうとする組織の人間の気持ちも、分かるんですよね。
はた迷惑なのは、間違いないし、私は絶対乗り移られたくないですもん!
その間、自分の人生が消えるし!
でも、ゴーストは、とにかく‟自分”を愛してほしいんです。
美しい人間に、どんどん乗り換えるのも、愛が満たされないから。
ある残虐なゴーストも、求めるのは愛してもらうこと。
さすがに、これはただの悪霊だろ!と言いたくなるくらい暴走していますが。
ゴーストたちも、どう存在したらいいのか分からないんですよね。
そこが、切ない。
世界を旅する度:★★★★
過去のゴーストの旅、現在の逃亡劇。
ゴーストは、いろいろな国を訪れます。
数々の国の都市をめぐり、いろいろな人間に関わる、ゴーストの行動を読んでいくと、
ありえない視点から、世界を旅している気分に。
長~く存在するゴースト目線の街の描写は、ちょっとひねくれてますが…。
「時間」と「移動範囲」、どちらも壮大な、長い長い痛切な物語になっています。
ゴーストの存在も、関わる人々も切ない!
ラストも切なく、美しい…。