作者名:ジョー・ウォルトン 創元SF文庫
もしあのとき、別の選択をしていたら? パトリシアの世界は、若き日の決断を境にふたつに分岐した。並行して語られるふたつの人生で、彼女はまったく異なる道を歩んでゆく。それぞれの世界で出逢う、まったく別の喜び、悲しみ、そして子どもたち……どちらの世界が”真実”なのだろうか? 『図書室の魔法』《ファージング》の著者が贈る感動の幻想小説。世界幻想文学大賞候補、ティプトリー賞・全米図書館協会RUSA賞受賞作。
1つの選択から分かれた、まったく別の人生。
幸せなのは?また選ぶとしたら?どっちの人生だろうか…。
どっちも波乱万丈度:★★★★★
物語は、老境の女性パトリシアが、記憶の混乱を感じている場面から始まります。
認知症を自覚しており、介護施設にいるのですが、
建物のレイアウトなどが日によって変わっているような…。
特に混乱するのは、お見舞いに来てくれる、子どもたちのこと。
3人の子どものうちの一人に会ったと思えば、
自分は2男2女を産んだはずだと認識します。
すべて認知症の症状なのか?
…ここから、彼女の人生の物語がさかのぼり、綴られていくという作品。
1926年、イギリスに生まれたパトリシアは、幸福な少女時代を過ごしましたが、
その後勃発した戦争により、父と兄が死んでしまいます。
彼女は奨学金でオックスフォード大学に進み、英文学生のマークと出会い婚約。
パトリシアは卒業後、教師になりますが、ある日学校にマークから電話が来て、
彼女に結婚するかしないかを迫り…この時の返事で、彼女の人生は2つに分岐!
マークと結婚し、教師を辞めて家庭に入るパトリシア。
結婚せず、傷心のままイタリア旅行へ出かけるパトリシア。
一体どういうことなのか、異なる世界のパトリシアが交互に語られ、
どちらのパートでも、ときに喜びを見つけ、ときに悲劇に見舞われ、
波乱万丈の人生を送るのです。
この交互に別パターン(と言っていいのか)の人生が綴られていく構成が、面白い!
波乱万丈の人生は、どちらも女性の一代記としてハラハラするもので…。
最後まで読んだときに、どちらが幸せな選択かと言われると、
読者によって分かれそうです。
気になって止まらない度:★★★★
分岐点からは、愛称トリッシュの世界と、愛称パットの世界が、交互に語られます。
パトリシアの呼び方は、トリシアからトリッシュになったりと、いろいろ変わるのですが、
それが1つの契機というか、状況が変わるきっかけになっている印象でした。
呼び名が変わるごとに、子どもが生まれるたびに、家庭で問題が起きるたびに、
どんどん変化していく、パトリシアの世界。
あっちで苦労し憤ったら、こっちでは愛しい人を見つけ…という風につぎつぎ展開し、
こちらのパトリシアはこうなったけど、じゃああちらは?となり、読むのが止まらない…。
10ページごとくらいに、2つの波乱の人生が語られるので、もう気になる気になる!
結局、ほとんど一気読みたいになりました(笑)
女の幸せについて考える度:★★★
結婚するか否かは、女性の一生を左右する、大きな選択ですよね。
パトリシアの場合は、相手が問題ありなので、多大な苦労をするはめになりましたが、
結婚生活に問題があっても、子どもを愛し、女性のための活動を頑張ります。
しなかった場合も、大好きなものを見つけ、家庭を築き、仕事も充実させるのですが…
こっちは世界に問題が。
どっちが、女として人として幸せなのか…う~ん、な、悩む。
2人分の人生を読んで、最後の最後にどんなラストを迎えるかというと…。
何だかすごい物語を読んだなぁと、深い余韻に浸れる作品です。
2つの一代記を、交互に読む不思議…パトリシアの世界にはまり込んでしまう!
大きな余韻をもたらす、幻想的な物語でした!