作者名:夢野 久作 角川文庫
極楽鳥が舞い、ヤシやパイナップルが生い繁る、南国の離れ小島。だが、海難事故により流れ着いた可愛らしい二人の兄妹が、この楽園で、世にも戦慄すべき地獄に出会ったとは誰が想像したであろう。それは、今となっては、彼らが海に流した三つの瓶に納められていたこの紙片からしかうかがい知ることは出来ない…(『瓶詰の地獄』)。読者を幻魔境へと誘う夢野久作の世界。「死後の恋」など表題作他6編を収録。
いびつで残酷で、どこか滑稽な、悪夢の世界。
何とも言えない読後感を残します…。
どろどろの世界観度:★★★★★
夢野久作といえば、「少女地獄」や「ドグラ・マグラ」など、
おどろおどろしい作品のイメージがありました。
話が分かりにくいと聞いたので、長編は紹介文をチェックしたのみ…。
でも、世界観が気になるので、たまたま目にした短編集を買ってみました。
そして読んだ結果…うん、おどろおどろしい!
ものすごく後味が悪い、という感じではないんですけど、
幸せ要素が、ほとんどない。
でも、なるほど面白いです。
表題作の「瓶詰の地獄」、「志那米の袋」は、
読み進めるにつれてゾ~っとする作品でした。
いちばんうわっと思ったのは、「死後の恋」。
最後の一行のインパクトが来ます。
個人的に、この3つがおすすめ。「一足お先に」も、悪夢感が強くてなかなか…。
ものすご~くグロい、というほどでもないのですが、
とにかく独特の雰囲気がある物語が収録されていました。
泥沼の面白さ度:★★★
時代を感じさせる文体で、恐ろしい人間のエゴと欲望が描写されていて、
残酷だけれど、妖しく耽美な、悪夢的な魅力のある世界観です。
人間の歪んだ心理と恐ろしい展開に、不思議な幻惑の要素が入り込んでいて、
う~ん、何だか嫌いじゃない…。
好きな人は、とことん好きになっちゃうタイプの、
病んだ魅力の物語だと思いました。
1つ1つのインパクト度:★★★★
1つ目の「瓶詰の地獄」は、最初はさらっと読んで、
2回目にじわじわ不気味さと、うわー…という感覚が来ました。
無人島に流れ着いた、幼い兄妹が壜につめた手紙、という形式で語られますが、
この無人島、生存が大変な過酷な島ではなく、むしろ楽園のような島。ここで何が?
一度読んだら、今度は最後から逆に読んでみると分かりやすいです。
2つ目の「人の顔」は、この話というか、その後の展開を考えると怖い(汗)
3つ目の「死後の恋」のインパクトと、凄惨さときたら!
いきなり話しかけてきた、奇妙なロシア人が語りだした死後の恋の話。
この短編集の中でも、随一のインパクトと凄惨さです。
美しい宝石と、物語のグロテスクの対比がすごい。
最後の一行で、どういう話だったのかが一気に判明するのが見事です。
4つ目の「志那米の袋」は、がっつり恐ろしい話。
一緒に飲むことになったロシア人女性が語るのは、
アメリカの軍人に教えられた、妖しい遊びにのめり込んだ日々。
しかし、彼と一緒にアメリカに行くことを決意した彼女を待っていたのは、
恐ろしすぎる展開!そしてわ~お…というラスト。
5つ目の「鉄鎚」は、人間の醜さ・恐ろしさが悲しい話です。
死んだ父が悪魔と呼んだ叔父、叔父が入れ込む妖しい女性、
2人に深く関わることになった主人公の青年。
この3人が迎える結末とは…。
6つ目の「一足お先に」は、まさしくザ・悪夢の世界。
片足の切断手術をして入院中の青年が、殺人事件に巻き込まれる話で、
二転三転する展開を見せます。
7つ目の「冗談に殺す」は、グロテスクな殺人の話なのに、どこか滑稽な印象。
犯人の狂気と、歪んだ自己顕示欲を描いています。
以上7話、すべてが傑作!とは言えないかもしれませんが、
とにかく印象に残る話が多い短編集だと思います。
独特の世界観で有名な作家。
その持ち味を、まずは短編から味わってみませんか?