作者名:フェルディナント・フォン・シーラッハ 創元推理文庫
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。―魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作!
この犯人たちは、「犯罪者」なんて一括りにできない…。
残酷で切なく、少しだけ優しい。
どうしようもない気持ちにさせる物語たち!
淡々と冷静に…衝撃的度:★★★★★
この作品は、ドイツのベテラン刑事事件弁護士が、自身の経験をもとに創作した、
11の犯罪の物語からなる、連作短編集です。
創作といえども、調書のような雰囲気の、冷静な語りとスマートな文章を読んでいると、
「これ、実話なんじゃない?」と、疑いたくなってきます。
守秘義務があるから、そんなわけはないと思いつつも、
あまりにも衝撃的で、細部が生々しいため、なんか錯覚してしまう(汗)
本当に、とつとつと語る感じなんですよ。
でも、行間あけて、次の段落を読んだら、おいおい!と言いたくなるくらい、
すごいことになってる!
最初の「フェーナー氏」では、何とまあ、なかなかのインパクトの話だな、という感じでしたが、
次の「タナタ氏の茶わん」を読んで、思わずうぎゃっと。
3話目からは、今度は何が起きるんだ!とドキドキしながら止まらなくなりました!
真実の姿とは何か?度:★★★★★
犯罪に走ってしまった登場人物たちの話を読んでいき、
彼らの過酷な人生を知るにつれ、
「罪を犯した人間を裁くこと」の難しさに、愕然…。
多くのことを考えさせる、1つ1つが重厚な作品でした。
特に心に残ったのは、まず「フェーナー氏」。
穏やかな医師の男性と、その妻に何が起きたのか?
1つの行為が、どうしても自分に許せなかったがゆえに、誰よりも誠実な男性がこんなことになるとは…と、
読後ウルっとくる切なさ。終わり方は好きですけど。
「タナタ氏の茶わん」では、悪党の容赦ない末路に震撼。まぁ、因果応報かも…。
姉弟の悲劇を描く「チェロ」が、いちばん悲しかった!切なかった!
う~わ~となる話が続いた後で、ある犯罪者一家に生まれた青年の機転を描く「ハリネズミ」は、
殺伐とした話の後の変化球といえる作品で、これも好きな人が多そう。
何だかスカッとしたのは、美術館であるものに憑りつかれた男性の、異様な生活が印象的な「棘」。
追い詰められた男性は可哀そうなんですけれど、
ラストに彼がとる行動には、妙なすがすがしさがありました。
このほかにも、謎を残す話や、悲惨な話、うげっという後味の話、最後に幸せが訪れる話、
いろいろな物語を味わえます!
もっともっと読みたい度:★★★★
1つとして、展開と結末が読める話がないので、
1つ読むと、次はどんな話だろうと気になってしょうがないです。
恐ろしい話も多いのに、なぜか、もっともっと…と読みたくなってしまう。
自分は‟人間”というものを、まだ全然知らない。
知らずにいられるのは、当たり前のように平和に暮らしているからだ。
そういうことを、ガツンと思い知らせてくれる作品でした。
ちなみにどの話にも、りんごが出てくるので、次はどこで登場かなと、チェックするのも楽しい。
続く短編集「罪悪」も、すさまじいですよ~。
短編と、あなどるなかれ。
どの物語も、深く心に突き刺さります!