作者名:深緑 野分 創元推理文庫
美しい庭園オーブランの管理人姉妹が相次いで死んだ。姉は謎の老婆に殺され、妹は首を吊ってその後を追った。妹の遺した日記に綴られていたのは、オーブランが秘める恐るべき過去だった―楽園崩壊にまつわる驚愕の真相を描いた第七回ミステリーズ!新人賞佳作入選作ほか、異なる時代、異なる場所を舞台に生きる少女を巡る五つの謎を収めた、全読書人を驚嘆させるデビュー短編集。
ときにたくましく、ときに残酷。少女にはいろいろな顔がある。
異なるシチュエーションで、必死に生きようとする少女たちを描く傑作短編集!
インパクトのある短編度:★★★★★
最初に収録されているのが、
表題作でミステリーズ!新人賞佳作入選作「オーブランの少女」。
しょっぱなから、とんでもないインパクトの作品でした!
美しい庭園を管理していた老姉妹が死亡した後、彼女たちが幼い少女であったとき、
オーブランで一体何があったのかが、明らかにされるのですが、
予想を超える凄惨な過去に、ひいいっとなりながら読むのが止まらず。
え、えぐい…。
花が咲き乱れる様子が、とても美しい描写だから、落差にびっくり。
2番目の「仮面」は、ヴィクトリア朝で、醜い姉と美しい妹と関わった医師が、
殺人を犯す犯罪譚。
正統派の騙されるミステリ。
3番目「大雨とトマト」では、雰囲気ががらりと変わります。
レストランの店主が、謎めいた客の少女は、
自分が一度不倫をしたときにできた子じゃ…と疑いだして、大混乱。
あらま!と驚く、何気にパンチが効いたライトなミステリです。
4番目「片思い」は、昭和の女学校での可愛い女の子をめぐる青春ミステリ。
第5話「氷の皇国」は、再び「オーブラン」なみのインパクト!
これが最もボリュームがあり、細部の設定がつくりこまれた、
残酷なおとぎ話のような物語でした。
がつん!と心に刺さる強烈な話も、
ライトなミステリだけれど、しっかり騙される話もあり、
非常に楽しめる短編集でした!
質の高いミステリ度:★★★★
どの話も、予想外の展開と結末でした。
「オーブランの少女」では、一見穏やかで美しいサナトリウムで、
まさかそんな事態が進行していたとは!と驚愕。
全員がつけるリボンの色の意味や、教師たちの言動に隠された真相などが、
一気に明かされるクライマックスは、圧巻の迫力でした。
いちばん怖くて、いちばん面白かった…!
「仮面」では、このまま無事に済む訳ないなぁと思っていたら、案の定…。
黒幕の正体は意外な人物で、言われてみればああ!という感じ。
「大雨とトマト」が一番短い話なんですけど、ひねりが効いていて面白かったです。
「片思い」は、少女たちの心の動きを楽しむミステリでした。
「氷の皇国」は、冷静沈着な犯人の計算と、
それを上回る鮮やかな推理を見せる探偵役の不思議な魅力を、
緊迫の空気とともに堪能できます。
恐ろしいけれど、何だか切ない物語だったなぁ…。
醜くも美しい度:★★★
どの話でも共通するのは、
過酷な時代でも、辛い境遇でも、悩みがあっても、
何とか生き延びよう幸せになろう、とあがく少女が描かれていることです。
ひどく醜かったり、パッとしなかったり、恐ろしいほどの美貌であったりと、
容貌はそれぞれですが、
物語の中で見せる姿は、醜くもあり美しくもあり…。
一筋縄ではいかない存在を丁寧に描き、
彼女たちならではのミステリとして作られており、
読後、は~っと息をつくような、印象深い短編集でした。
重厚なミステリも、ライトなミステリも素晴らしい!
長編作品もおすすめですが、こちらも絶対読んで損なしです。