作者名:ビル・ビバリー ハヤカワ・ミステリ文庫
十五歳の少年イーストは生まれて初めてLAを出た。これから人を殺しに行くのだ。標的の裏切り者は遠く離れたウィスコンシンに旅行中で、法廷に立つため来週戻ってくる。その前に始末しろという所属組織の命令だった。イーストに同行するのは、殺し屋である不仲の弟をはじめとした少年たち。崩壊の予感と軋轢を抱えながら、二〇〇〇マイルに及ぶ長い旅が始まる。孤独なる魂の彷徨を描いて絶賛を浴びたクライム・ノヴェル。
組織の窮状を救うため、初めてLAを出た少年・イースト。
旅は驚きとトラブルの連続で、彼の心をかき乱すものばかり。
孤独で何も持たない少年が選ぶ道とは?まさに魂のロードノベルでした!
素晴らしい高評価度:★★★★
英国推理作家協会賞最優秀長編賞ゴールドダガ―、同最優秀新人賞ジョン・クリーシー・ダガー、
全英図書賞(年間最優秀犯罪小説部門)、ロサンゼルスタイムズ文学賞(ミステリ部門)、
以上4つの賞を受賞したという、素晴らしい高評価の作品です。
ゴールド・ダガー受賞の帯と、美しいブルーの表紙に惹かれて購入。
殺し屋の弟がいる、孤独な少年の緊迫の旅、という設定にもそそられました。
読んでいくうちに、弟は13歳(⁉)であることが判明し、
どんな殺し屋やねん…と唖然としましたが、
主人公が15歳だから、そりゃそのくらいか…と納得しつつも、
全体的に犯罪に走るメンバーの年齢の低さと、冷静な態度にびっくりする作品でした。
少年たちは、みんな黒人で、麻薬を売りさばく「家」に関わる仕事をする、
きちんとした教育を受けられないような、訳アリの子どもたち。
ある意味、どこよりも閉塞的な環境で暮らし、「外」を知らない少年が、
恐ろしい任務を受けて初めて生まれ育った町を出る…。
ハイウェイを走り、知らない町を通り、白人の多いエリアに戸惑い、
同行者と衝突することで生じる変化が、胸に響いてきます。
特に、通過する山々の自然に圧倒される主人公・イーストの姿が、非常に印象的!
序盤・中盤の緊張感と、後半のイーストの変化をじっくりと描く部分の対比がすごくて、
四冠受賞も納得の、読み応えのある成長物語でした。
イーストから目が離せない度:★★★★★
イーストは、組織のボスの命令に忠実で、
麻薬斡旋所の「家」の見張りをひたすらこなす少年。
15歳ですが、冷静で物静か。厳しい人生を感じさせる子です。
しかし、「家」でトラブルが起き、組織を守るために、
ある人物を殺害せねばならず、
同じく組織の構成員である3人の少年とともに、初めて町から出て旅に出ることに。
この旅で、徐々に徐々に、感情を激しく見せるようになるイースト。
イレギュラーに弱く、神経質な部分が年相応で、
個人的に何だかどんどん好感度がアップ!
でも彼の繊細で真面目な部分は、同行者とのトラブルも招くのです…。
ついに「仕事」をするにあたって、予想外の事態に陥り、後半、物語は様相を変えます。
序盤・中盤は、同行者にトラブルメーカーがいて、恐ろしい任務もあって、
殺伐とした雰囲気で、ひたすらハラハラ。
もう退場してはくれないか…なんて思ってしまうほどお調子者がいて、
序盤はちょっとイライラしてしまいました(汗)
中盤はいよいよ仕事と言わんばかりに、不安感マックスのトラブル続き。
そして後半はどうなるかというと…私は、この後半が好き。
怒涛の展開があってからの、じっくりしっかりした描写。
作者は、この部分こそ書きたかったんじゃないかな?なんて、勝手に想像してます(笑)
物語のラストが、とてもいい…!
スピンオフ作品読みたい度:★★★
この作品、主人公イーストの心理をとても丁寧に描き、つねに彼メインで語られます。
しかし、他にも気になる登場人物がいっぱい!
犯罪組織のボスで、イーストを気に掛ける叔父でもある、フィン。
イーストと旅をする、現役学生でコンピューター技術に詳しい、ウォルター。
そして、何を考えているのか分からない、不気味な殺し屋の弟、タイ。
性格は何となく分かるんですけど、謎が多くて、読んでいてすごく気になったんです。
彼らのこれまでと、これからが知りたい!
「東の果て、夜へ」の数年後の話とかを、誰かを主人公にして書いてくれたりしないかな…。
そこで、別の登場人物から見たイーストを読んでみたいものです。
誰もかれもが訳ありで、複雑な想いを抱えていそうで、
登場人物が魅力的な、クライム・ロード・ノベルでした。
孤独な少年の変化と成長を描き切った、素晴らしいロード・ノベル!
濃厚な読書体験がしたい人は、ぜひぜひ。