作者名:城平 京 創元推理文庫
怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に? 第八回鮎川哲也賞最終候補作、文庫オリジナル刊行。
第1部で唸り、第2部でさらなる衝撃を受ける!
「虚構推理」の作者が描く、過酷な使命を持った名探偵の物語!
恐ろしいメルヘン度:★★★★
始まりは、マスコミ各社に「メルヘン小人地獄」という題名の、
メルヘンなおとぎ話ながら、残酷で気味が悪い原稿が送られてきたこと。
毒薬を作るために、小人を殺した博士が死んだあと、
小人たちは3人の人間を殺害し、溜飲を下げ、めでたしめでたし(?)。
物語の中で殺される3人は、凄惨な殺され方をするのですが、
なんと現実で、女性が同じ殺され方をするのです。
この「メルヘン小人地獄」の内容が、本当に不気味!
しかも、ある科学者が33年前に赤ん坊の死体を使って、
証拠が残らない完璧な毒薬「小人地獄」を実際に完成させていたから、
ええ~という展開。
もはや、現実まで、恐ろしいおとぎ話めいてきます。
殺された女性の娘・藤田鈴花の家庭教師をしている大学院生・三橋青年は、
2人目も殺されたことを知り、「名探偵」を呼ぶ決意をします。
この名探偵・瀬川みゆきは、第1部で快刀乱麻を断つ推理をみせ、
第2部では、その重い宿命が明らかに!
第2部でこう来たか!度:★★★★★
第1部では、「小人地獄」に関わっていた人間が、
立て続けに、童話になぞらえて殺され、
その真相を探偵・瀬川が、鮮やかに暴くといった内容。
第2部では、1部で狙われた家・藤田家に残されていた毒薬「小人地獄」が使われ、
現在は鈴花の父・克人の部下になっていた三橋とともに、
お茶に招かれた後輩・山中が毒殺されてしまいます。
しかし不可解なことに、ほんの少量ならば無味無臭で検出もされない「小人地獄」が、
大量に混ぜられていたので、お茶は嚥下できないくらい苦く、
遺体から検出されてしまっているのです。
正しく使えば、なんの証拠も残さない毒薬があったのに、
なぜ犯人は、最も下手な使い方をしたのか?
なぜごく普通の女子大生が、殺されてしまったのか?
この、第1部と第2部で、「小人地獄」という恐るべき毒薬を使ったミステリを、
全く違う切り口で楽しませるのがすごい!
不可解極まりない事件に、再び呼ばれた瀬川が挑むのですが、
何回騙されるねん!というくらい、作者は読者を翻弄してきます。
名探偵の苦しみ度:★★★★
今まで読んだミステリの中で、間違いなく上位に入る、
‟悩み苦しむ名探偵”が活躍するミステリでした。
第2部の後半で、瀬川の過去と、背負っているものの大きさが明らかになるのですが、
……おっもい!
第2部では、名探偵なのに事件を解決しても、あまりうれしそうではなく、
若い女性なのに世捨て人のような雰囲気を持っている瀬川の、
その生き方の理由も、見どころです。
名探偵として生きるのは、いばらの道のようで…。
「完璧な毒薬」を、2段構えで上手く使ったミステリ!
鮮やかな推理と、名探偵の苦しみが、読みごたえありの傑作です!