作者名:鈴森 琴 創元推理文庫
死者を蘇らせる術で発展した亀珈王国。儒艮が塾を開くために買ったのは札付きの幽霊屋敷、引っ越し初日から怪奇現象が多発していた。そんな折、瀕死の炎龍が飛来し。王都を大混乱に陥れる。亀珈王国にとって炎龍は至高の存在。そこで急遽、龍語を解する界人の儒艮が通訳に指名される。彼は大切な家族となった金魚小僧のため、ある目的を胸に役目を引き受ける……。独特の世界が読む人を引きつけて放さない〈忘却城シリーズ〉第三巻。
儒艮が開いた塾は、怪奇現象だらけ!
そして金魚小僧は、悩めるお年頃?
そんな時、王宮は炎龍の対応で大混乱…ついに王族の内情が明らかに!
さらに広がる世界度:★★★★
1作目の主人公・儒艮(じゅごん)と、1作目で死者から完全な生者に蘇った少年・金魚小僧。
色々あってその後一緒に暮らすことになった、この2人がメインの3作目。
王の正妃・雪晶(せっしょう)と、第1王太子・風嵐影(ふうらんえい)の2人も、
王族側のメインキャラとして活躍します。
儒艮たちは、いわくつきの「比和院」という大きな古い屋敷を買い、塾を開講するのですが、
動く泥人形だらけだわ、老婆の声がするわ、
庭先では謎の影が目撃されるわ、怪奇現象のオンパレード!
しかし、有能な家庭教師だった儒艮の人望で、
何だかんだで、塾には子どもたちが増え、金魚小僧も同年代の子と過ごすようになり、
賑やかな大家族、という雰囲気が感じられます。
幽霊が出ても、ハエが出たようなリアクションしかしない儒艮が、ズレっぷりを発揮(笑)
トラブルが起きつつも、平穏に過ごしていたのですが、
街に瀕死の炎龍が飛来したことにより、その後、王宮の緊急事態に巻き込まれていきます。
王宮の抱える問題や、儒艮の生家の内情なども明らかになり、
難しい事情に、頭が痛い人が多い多い(汗)
王宮では、第2王太子の母で正妃の雪晶が、失った我が子が忘れられず苦しんでいて、
彼女のこの想いが、とんでもない事件を招くことになります!
王族にかけられた呪いは、王宮に暗い影を落とし続けていて、
ああ、これが火種でこれから悲劇的事件が起きるのね…
と思っていたら、すでに起きていた!
物語半分で明かされる真実に、唖然。騙されました!
前作は死霊術師たちがメインで、今作では王族の実情が明かされます。
続刊がでるたび広がる世界に、ますますはまり込みました。
家族の物語度:★★★★★
お互いを大切に思いながらも、特殊な出自ゆえに、
自分たちは家族みたいなものなのか、ならばどう接すればよいのか、
分からず悩む、儒艮と金魚小僧。
夫に愛され大事にされつつも、我が子を失った傷が癒えることのない、雪晶。
第1王太子として、己を律さざるをえず、肉親や兄弟にも複雑な感情を抱く、風嵐影。
そのほかにも、儒艮の父の立場や、雛龍を命がけで産もうとする炎龍、
比和院にかつて暮らしていた家族の謎などが描かれます。
全体を通して、「家族」の物語だと感じました。
う~ん、と切なくなるシーンもあれば、
わ~っと、キュンキュンするシーンもあり!
1作目で、儒艮と金魚小僧に好印象を抱いた人には、すごくおすすめ!
前作では、曇龍(ウォウロン)と厭神(えんしん)の掛け合いにドキドキしましたが、
今作での、儒艮と金魚小僧の絆が深まっていく感じも、負けていません!
壮大なファンタジーシリーズ度:★★★★
1作目は、野心を抱えたある人物がラスボス、という感じで出てきました。
2作目は、二十四大鬼の一体、鬼帝女と死霊術師のバトル。
そして今回は、現在の王族・黄王家と、滅びた千形族との因縁が…。
1作目から、やたら用語が出てくる、すごい細部まで凝った世界観だなぁと思いましたが、
シリーズ進むごとに、出てくる出てくる、謎が敵が因縁が!
なるほど、ここまで壮大なファンジーにするつもりだったからなのね!と納得。
そう考えると、伏線がすごい⁉
どんどん面白くなってくるし、好きなキャラが増えたし、4作目が待ち遠しいです。
つぎは、誰が主人公かな~。
謎と神秘に満ちた世界観がたまらない…。
秘密を抱えた登場人物たちの駆け引きにハラハラする、大人のファンタジー!