作者名:北村 薫 新潮文庫
真希は29歳の版画家。夏の午後、ダンプと衝突する。気がつくと、自宅の座椅子でまどろみから目覚める自分がいた。3時15分。いつも通りの家、いつも通りの外。が、この世界には真希一人のほか誰もいなかった。そしてどんな一日を過ごしても、定刻がくると一日前の座椅子に戻ってしまう。ターン。いつかは帰れるの? それともこのまま……だが、150日を過ぎた午後、突然、電話が鳴った。
とっても不思議で、ロマンティックな二人称。
美しく、幻想的で、ゆっくりじっくり読みたくなる作品です。
映画化もされた、「時と人」3部作の1つ。独立して楽しめます!
特徴的な二人称度:★★★★★
主人公の真希は、売れない版画家。
家事手伝いや、週2回子ども美術教室の先生をして、暮らしています。
ある日交通事故にあい、気が付いたら自宅の座椅子の上に。
ケガもしていないし、どこへ行っても、誰もいません。
どんな一日を過ごしても、気づいたら座椅子の上で、同じ一日を繰り返す日々。
うっかりケガをしても、気が付いたら無傷で座椅子の上。
寂しさに耐えられなくなりそうな150日目…突然電話が鳴り、事態が変わります。
孤独でおかしくなってしまいそうな状況ですが…。
真希は、冒頭からずっと、誰かと会話をしながら行動しているのです。
誰かというと、説明が難しい!
彼女の中には、男性の人格がいて、頭の中で昔から会話をしているみたいなんです。
多重人格、ということでもなく、本当に謎の存在。
でも、このおかげで、気が狂いそうな状況でも、何とか耐えられるんですねぇ。
この2人の会話で語られる文章は、他の作品では読めない、不思議な魅力があります!
個人的にツボにはまり、読みながらよく悶えてたような(笑)
この文章を堪能しながら読んでいたら、150日目に初めて外部からの接触があり、
真希がどういう状況に陥っているのかが、やっと判明。
外部から真希に接触してきた、ある人物も物語に参加し、
2人は協力し、いろいろなことを語り合うようになります。
そうしていたら、またまたある日、いつもとは違う出来事が!
そこから事態は急変し、予想外のスリリングな展開に。
追い詰められた真希は、いったいどうすれば元の世界に戻れるのか。
その意外な方法と、はいラスト!と言わんばかりの、美しいクライマックス…。
うっとりしちゃう素敵な作品でした~。
自分だったら、と想像する度:★★★
誰もいない。何をやっても、一日が終わったら、元の状態に戻る。
そんな状況になったら、自分なら何をするかなぁと、つい想像してしまいました。
短期間なら、思いっきり楽しめるかもしれませんね。
道路はガラガラだし、服は選び放題、陳列されている料理も選び放題ですし。
(次の日には戻るけど、真希は律義にお金を置いていくいい人です。)
まぁ、1~2週間過ぎたら、いろいろ飽きて、孤独に押しつぶされそうだけど(汗)
真希みたいに、会話の相手がいれば、少しは耐えられるでしょうが…。
美しい文体度:★★★★★
真希が話しかけ、「声」が答え、彼女の行動を描写します。
版画が刷られるとき、‟君は、この瞬間が大好きだ”なんて書き方…。
素敵じゃあないですか?
最初の3ページで、すっかりはまり込んでしまいました!
個人的に、「美しい文体の作品ランキング」で、かなり上位に入る作品です。
この作品は、北村さんの「時と人 3部作」のうちの一つで、
「スキップ」「ターン」「リセット」という順ですが、それぞれ全く異なる独立した話なので、
好きに読んで大丈夫みたいです。そのうち他の2作も手を出したい…!
北村作品というと、シリーズ化しているミステリ作品が人気で、作品数も多いみたいですが、
SF要素のある物語も素敵で面白いです!
好きな人は、とことんハマる設定かと。
幻想的で謎めいていて、ときにスリリングな傑作です。