作者名:ラヴィ・ティドハー 創元SF文庫
第二次世界大戦の直前、世界各地に突如現れた異能力を持つ人々は超人と呼ばれ、各国の情報機関や軍に徴集されて死闘を繰りひろげた。そして現在。イギリスの情報機関を辞して久しい超人のひとりフォッグは、かつての相棒と上司に呼び出され、過去を語り出す。能力の発現、初めての仲間との出会い、そして激しい闘いの日日…。2013年度英ガーディアン紙ベストSF選出作。
戦争は常にそこにあり、老いることのない異能力者たちは果てしない闘いを重ねる。そんな血と憎悪にまみれた世界にも確かに存在した愛と、青年たちの友情。そしてフォッグは彼が呼ばれた理由である、終戦直後のある事件の秘密を語りはじめる。異能力者たちすべての運命の鍵を握る、“夏の日”と呼ばれた少女のことを―。世界幻想文学大賞作家が放つ、最先端の“戦争×SF”!
オブリヴィオンとフォッグ、ともに戦った青年たち。
戦場を駆け抜ける‟超人”たちの運命を、特殊な視点で描く、SFの傑作!
超人の活躍と苦しみ度:★★★★★
一言で言ってしまうと、ある博士の発明品により、超能力に目覚めた一部の人間が、
その後、世界大戦中‟超人:ユーバーメンシュ”の特殊部隊として、戦うという物語。
まとめるとこうなんだけど…ただの超能力ものではないんですよ~。
超人たちの苦しみと大切な物、大戦中の悲劇や、その後も残る影響などを描いていて、
壮大な、超能力×戦争ものの作品になっています。
語り手の視点が独特で、まさに「観察者が見たい場面をクローズアップしていく」という感じ。
主人公は、イギリスの超人部隊の青年2人・フォッグとオブリヴィオンなんですけど、
この、さまざまな視点から観察する語りによって、
2人以外の超人の活躍や苦悩、超人と一般人に降りかかる戦争の影響が描かれていて、
「暴虐の時代」に起きたことを目撃している感覚になります。
各国の超能力部隊も、それぞれ個性的。
イギリスメンバーは、養成校の時代のシーンがあり、各々の性格も能力も詳しく描かれます。
主人公サイドだからなのか、見た目も能力も、あまり奇抜ではない印象。
アメリカの超人たちはお国柄なのか、能力も性格も派手に見えます。
ロシアのメンバーは、まるで水の精や魔法使いといった民話の登場人物のようで、
トランシルバニアの超人は、そのまま吸血鬼に見えるし、
ドイツ超人部隊代表は、ナチスの恐ろしさを体現したかのような冷酷な男です。
能力・性格・事情が異なる超人たちが、戦争によって争わざるを得ず、
超能力バトルに熱くなりつつも、誰もがとにかく切ない!
ハラハラ興奮すると同時に、胸がきゅ~っとなるのが、たまらない作品でした。
印象的なシーン度:★★★★★
霧を操る男、手をかざして物体を消滅させる男、痰を弾丸のように飛ばす少女、
水の精のごとく行動する女性、猛獣化する男…などなど。
こういった超能力者の戦闘シーンも、もちろん見どころなんですけど、
彼らが友情を築き、語り合い、しかし離れていく…その葛藤も印象的。
あと、とにかく好きになっちゃうシーンが多い!
「夏の日」と呼ばれた少女と、フォッグが、夜のパリで不思議な邂逅を繰り返すシーンは、
とても幻想的で、戦時中がゆえに悲しいくらい美しく、大好きです。
オブリヴィオンが、バッドトリップのすえ落ちていく、
悪夢的ながらコミカルなシーンも、かなり印象的。
あとは、すべてが始まった日、‟波動”の影響がフォッグに到達する場面も、
切なさが半端ないクライマックスも…言い出したら、きりがないなぁ。
もう、一緒にいればいいのに!度:★★★★
老いることのない超人たちの、戦争とその後も終わらない戦いを描いた作品ですが、
2人の青年の、危うい友情も、もう一つのテーマ。
「夏の日」とフォッグが出会ったことにより、2人の関係がどう変わるのか。
2人とも強いわりに精神的に危なっかしいから、もう目が離せません!
…正直、これだけ一緒に生き延びてきたんだから、一緒にいればいいのにと思わんでもないですが、
なかなか、う~ん、人の心ってうまくいかないもの…。
2人が迎える結末の感想は、言葉にしにくい!嫌いじゃない、とだけ…。
世界中の‟超人”たちが、戦わざるを得なかった時代に、何が起きたのか。
主人公2人がたどり着く結末を、ぜひ、見届けてください。