作者名:レイ・ブラッドベリ ハヤカワ文庫SF
冷えきった地球を救うために太陽から“火”をもち帰ろうとする宇宙船を描いた表題作「太陽の黄金の林檎」。灯台の霧笛の音を仲間の声だと思い、毎年海の底から現われる古代生物の悲哀をつづった「霧笛」。タイム・トラベルがはらむ危険性を鋭く衝いた「サウンド・オブ・サンダー(雷のような音)」など、SFの叙情詩人と呼ばれる巨匠の幻想と詩情にあふれる短篇集。ジョゼフ・ムニャーニによる幻想的なイラストも収録。
「10月はたそがれの国」と同じく、素晴らしいイラスト付き!
さまざまなジャンルの短編が楽しめ、有名作もばっちり!贅沢な短編集です。
バランスが良いブラッドベリ度:★★★
幻想・SF・ユーモア・ホラーなどなど、多くのジャンルの短編を書いたブラッドベリ。
多いのは幻想とSFかな、というイメージですが、
どうせなら色々なジャンルがあり、有名作が収録されている本から手を出したいところ。
その点、本作は有名な「霧笛」や「サウンド・オブ・サンダー」が入っていますし、
幻想的な話も、いかにもブラッドベリなSF作品も、人間の滑稽さを描いた話も、
思わず笑ってしまう話も、静かな感動に満ちた話もばっちり!
幻想小説に特化した「10月はたそがれの国」と合わせて読めば、かなり楽しめると思います。
SFと人間の姿を鋭く描いた物語が好きな人は、「とうに夜半を過ぎて」もおすすめだし、
他の短編集も、「華氏451度」などの長編も面白いのですが…
あれこれ言っちゃうときりがないので、とにかく色々な短編を読みたい人におすすめです。
有名作はやっぱり面白い!度:★★★★
灯台の霧笛の音を、仲間の声と思い込んで会いに来ようとする古代生物との遭遇を描いた「霧笛」は、
詩的な表現と相まって、とにかく悲しく美しい!
本当に忘れられないくらい切なく、孤独な魂を幻想的に描いた作品でした。
SFの有名作で、映画化もされた「サウンド・オブ・サンダー(雷のような音)」は、
タイム・トラベルの危険性を書いた、恐るべき物語。
読み終えた時、思わずこっわ!と言っちゃいました。でも面白い、これは確かに面白い。
紹介文に書かれていたこれらの作品以外にも、楽しめる作品が20篇も収録されているので、
読みごたえはたっぷりです。
あれもこれもおすすめ度:★★★★★
緊迫の状況で、奇妙な強迫観念に憑りつかれた男が迎える結末「鉢の底の果物」は、
恐ろしいけれど滑稽さもあって、お気に入りです。
一人の男が行った犯行「人殺し」は、実はいちばん怖い話かも?
同じくディストピアものの「歩行者」と比べて読んでも面白いかと。
縫物をする3人の女性のシーンから、予想外の結末へ導かれる「ぬいとり」は、演出がにくい傑作です。
手紙を待つ女性の、滑稽で切ないエピソード「山のあなたに」も、
何とも印象に残る話で、けっこう好き!
発電所に迷い込んだ女性に起きる変化とは?
「発電所」は発想と展開が素晴らしい傑作だと思います。本作でもかなりお気に入り。
不可思議な世界に紛れ込んだかのような気分と、ほのかな温かさを感じる「草地」は、
撮影所の書割りで、よくこんな話を思いつくなぁ…とただただ感心。
両親がヨーロッパに行っている間に、年頃の姪っ子を預かることになった夫婦の、
振り回されっぷりを微笑ましく読んでいたら、おばあちゃんの爆弾投下で笑った「大火事」も、
後半の気分転換になるユーモラスな話で楽しめます。
このように、ブラッドベリならではの発想で描かれた、珠玉の短編がたっぷり!
ぜひ、お気に入りの物語を見つけてみてください。
ちなみに「10月はたそがれの国」収録の「集会」「アンクル・エナ―」と、本作の「四月の魔女」を読んだ人は、
河出文庫「塵よりよみがえり」を読むと、よりいっそう妖しい一族の物語を楽しめます。
はずれなしの、傑作短編集!
じっくりと、不可思議で美しい世界を味わってみてください!