作者名:斉木 香津(かづ) 中公文庫
その朝、双子の老姉妹が手に手をとり、崖から飛んだ。疎遠だった子らが葬儀に集い、やがて武家屋敷の床下に隠された四体の遺骨を見つけ出す。これは誰?いつからここに?金貸し一族の淫靡で切ない歴史と、“乙女”のゆがんだ欲望を描き出した、背徳のミステリー。
生活苦と「少女趣味」が家族を追い詰めていく?
生き残るために起きた、惨劇の歴史とは…?
いわくありの一族度:★★★★
五十坂家は、やり口の悪質さから「人喰い」と呼ばれた、
高利貸しの男が築いた一族です。
その由来ゆえ、地元では嫌われていました。
しかし、人食いの子どもにも孫にも商才はなく、
五十坂家は衰退の一途をたどることに。
子孫の公一郎と璃理子の兄妹の代には、それほど余裕はなく…。
この2人の代では、時代の流れでますます大変になるのですが、
色々なことが引き金になり、「五十坂家の恐ろしい秘密」が出来てしまうのです!
現代パートと、公一郎たちの過去パートが、交互に語られ、
じわじわと物事がおかしくなっていくさまが描かれて…怖い。
物語は、みんなで床下から白骨死体を掘り出しているシーンから始まります。ひいっ。
これが序章で、すぐに本編が始まり、
そちらもおばあちゃん2人が崖から飛び降り自殺をして、
家族がびっくりするという、いきなりすごい展開から。
この飛び降りた2人が、公一郎の娘に当たります。
五十坂家の双子の老姉妹が、崖から飛び降り死んだことで、
娘や孫たちが、その理由を考えだし、
徐々に秘密が暴かれることに。
現代に生きる孫娘・由羽の視点と、双子の片割れの息子・双葉の視点、
過去パートは主に公一郎と、叔母・璃理子の当時の視点で、語られます。
どのパートも、とにかく息苦しい。
何というか、この一族、ちゃんと幸せな人いるのかしら?と心配になるくらい、
どの人も、上手く生きられない問題を抱えています。
まぁ、それも、公一郎と璃理子の視点で語られる、とんでもない家族の過去に比べれば、
まだ全然マシなんですけどね…。
不気味さが漂う表紙の雰囲気を裏切らない、濃厚で陰惨な物語でした。
どろどろのサスペンスが読みたい人は、ぜひぜひ!
いびつな少女趣味度:★★★★★
私は、現在のパートよりも、過去のパートの方が、
ぐいぐい引き込まれて読みました。
というのも、璃理子が、すさまじい性格の人物だったから。
この小説を読んで、いちばん印象に残るのは、この璃理子だと思います。
何がすごいって、もはや少女趣味の権化!
いつまでも、清らかな乙女として生きるために、手段を選びません。
ずる賢く狡猾で、最初は自分勝手な子だなぁくらいに思っていたのですが、
読み進めるにつれて、そんなに生易しいものではなかった!と愕然。
ひ、ひくわ~(汗)
彼女の欲望というか執念に振り回される家族。彼らに一体何が起こったのか…。
もう気になって気になって!
どろどろサスペンスって、好んで選ばないんですけど、
たまに読むと止まらないんですよね。イヤミスと同じく。
他の一族の人間も、なかなかすごいことしているんですけど、
インパクトでは、璃理子さんトップです。
どの世代も大問題度:★★★
一族の、隠された歴史が、少しずつ明らかになっていくのですが、
公一郎・璃理子から始まり、祖父母の代も子どもの代も、孫の代も、
ヘビーな問題に悩まされる血筋です。
璃理子が凄まじいと書きましたが、彼女だけじゃないんです本当に。
悩みが多いのはいいとして、鬱屈具合がなかなかのレベル…。
このお家には、ちょっと関わりたくないかも。
どの家庭にも、大問題は発生するものでしょうが、
この一族に起きたことは、あまりに血なまぐさく歪んでいて…。
屋敷の床下からは、四体もの白骨死体が見つかっちゃいますからね。恐ろしや。
何があったら、そんなことになるのか…
気になった方は、ぜひ読んで確かめてみてください。
人間のエゴが恐ろしい…。
歪みが矯正されず、欲望が止まらなくなったとき、惨劇が!