作者名:高村 薫 講談社
それは一発の銃声から始まった。15年前、大阪の町工場で母を撃った男はどこに?吉田一彰はその男・趙文礼をさがしていた。公安の田丸もまた趙を追っていた。ある夜、キタのクラブに現われた趙に中国語の電話がかかり、直後銃声が轟いた。そして、その時から一彰は、裏社会に生きる男たちの非情な闘いにのめりこんでゆく…。
公安に狙われる、訳ありのアジアの男たち。そこで育まれた友情の結末とは…。
不安定な男の絆といえば、やっぱり高村作品!
容赦なき裏社会度:★★★★
「不安定な立場の危うい男たち」「危険な裏社会の容赦なさ」「町工場や警察の詳細な描写」。
高村薫ハードボイルド作品といえば、こういった要素は欠かせません。
もちろん本作も、ガンガンこの路線で進みます。
主人公の大学生・吉田一彰は、幼少期に大阪で暮らし、協会横の町工場でよく遊んでいましたが、
母が裏社会の諍いに巻き込まれ、銃で撃たれて殺害されるという、ショッキングな事件が発生。
しばらく大阪から離れていました。
しかし、どうしようもない思いを抱え、大学進学により大阪に戻り、
当時の関係者に接触するために、会員制高級ナイトクラブ「ナイトゲート」でバイトをする日々。
そんなある日、大きな動きがあり事件が…。
その事件によって、一彰の人生は一変し、謎の青年リ・オウと運命的な出会いを果たします。
そこからは、がっつり裏社会!
日本・中国・台湾といったアジア諸外国の入り組んだ事情に巻き込まれた2人は、
何年もたってから再会を果たすのですが、どんどん事態はきな臭くなってきて…。
訳ありだけれど、平凡な大学生だった一彰の激動の人生。
彼とリ・オウが、最後にどんな結末を迎えるのか、
ひたすらハラハラする傑作ハードボイルドです。
「わが手に拳銃を」が1992年の作品で、これを土台に全く違った展開のリメイク作品として、
1999年に出版された文庫本が「李歐」。
大まかな設定以外はだいぶ変わっていて、別の物語なので、気に入った人は読み比べると楽しいかも。
惚れたって言えよ―。美貌の殺し屋は言った。その名は李歐。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。
青年の絆と執着度:★★★★★
高村作品では、男の危険な執着と友情が描かれるのも特徴的です。
女性キャラ出てくるけれど、影薄いんですよね…。
女のドロドロはあまり読みたくないです、という人にはおすすめの作家さん。
本作では、拳銃の魅力に見せられた裏社会の人間たちが、国家の事情が絡んだトラブルに巻き込まれ、
容赦ない結末を迎えていくという物語。
そんな状況で、ある事件をきっかけに絆を築いた青年たちが、
お互いに相手をかばいながら、生き抜いていこうとする物語でもあります。
この、どこか歪だけれど必死で、かつ不安定すぎる関係から目を離せず!
2人の関係の変化や、どっちがより執着しているかなども、
「わが手に拳銃を」と「李歐」では異なります。
ハードボイルドとして、アクションが多くて盛り上がるのは「わが手に拳銃を」で、
一彰の心境の変化を丁寧に綴り、落ち着いた語りなのが「李歐」という感じ。
リ・オウの特殊キャラ度:★★★
高村作品に出てくる人物と言えば、
「マークスの山」の合田雄一郎とか、「神の火」の島田とか、
「黄金を抱いて翔べ」の幸田とか、
お世辞にも、明るくて朗らかですね!とは言えない男たちばかり。
主人公の一彰も、幼少期の経験と本人の気質があり、合田たちに比べたら割と普通の神経ですが、
それでも平凡な幸せを掴むタイプの人間には見えません。
こんなふうに、明るくて楽しい性格の人間が基本出てこない高村作品において、
異例な存在であるのが、金儲けが大好きな‟明るいワル”リ・オウ!
裏社会の危険なやり取りと、それに人生を狂わせられる男たちによって、
重たい作品であるはずの本作が、
他作品に比べたら、若干明るく感じられるのは、リ・オウの性格ゆえかと。
そういう意味で、珍しい高村作品なのかも?
正統派高村ハードボイルド作品を呼んだ後に、手を出してみるのもおすすめです。
ハマる人はハマる、硬派な魅力の高村作品!
明るい悪党リ・オウの魅力が味わえる本作は、レアな作品かも?