作者名:牧野 修 ハヤカワ文庫JA
友人とゲイパレードを見に来ていた青年、菱屋修介は、晴天の空にアポカリプティック・サウンドが響くのを聞き、天使が舞い降りるのを見た。次の瞬間、世界は終わりを告げ、菱屋は惨劇のただなかに投げ出された。そして彼が逃げこんだ先は自分の妄想世界である月世界だった。多数の言語が無数の妄想世界を生み出してしまった宇宙を正しく統一しようとする神の策謀と、人間は言語の力を武器に長い戦いを続けていたのだった。
最初から奇想天外な展開がすごい!
「並行多義言語」を駆使した戦いが斬新な、言葉と妄想のSF小説です!
いきなり超展開度:★★★★★
主人公の若手作家・菱屋修介は、ゲイであることを隠しながら、
友人・石塚啓太への恋心も隠し続けてきました。
ある日啓太にゲイパレードに誘われ、ドキドキしながら話をしていたら、
突如アポカリプティックサウンドが鳴り、天使が舞い降りてラッパを吹き、
空から大岩が降り、巨大な人面イナゴが人々をどんどん殺していくという、
この世の終焉、黙示録的展開に!
追い詰められた菱屋は、昔から自分の逃げ場所として妄想していた月世界に逃げ込み、
そのまま苦痛を感じずに死んでしまおうとするのですが、
目の前に現れた奇妙な人物が一言、「月世界へようこそ」…。
……ええ~?という、こういっては何ですが、
ファンタジーかと思っちゃうような、超展開です。
しかも、次の章から語られるのは、突然二ホンがアメリカの支配下に置かれ、
誰もが英語を話している世界。
そこでの主人公は、菱屋修介を変形させたような名前の、ヒッシャー・シュスケット。
敗戦前にあったはずの、謎の二ホン語の存在に気づき調べ始めると、
謎の黒服の男に狙われ、戦いに巻き込まれることに。
……さらに、ええ~?という展開。
なんじゃ⁉と思って読み進めると、
ここは無数にある妄想宇宙のうちの一つだと分かってきます。
つまり、妄想によって枝分かれした世界で、
人間と、宇宙を正しく統一しようとする神との闘いが続けられており、
独自の言語がこの戦いのキーとなるらしく、
ついに大きく事態が動きそうだ…!という物語なのです。
ややこしく、謎の設定に振り回されるけれど、読み進めると分かってくるのが面白い!
多重世界に引き込まれる度:★★★★
菱屋修介の月世界での、言語兵器を使った戦闘。
言語学の院生・ヒッシャ―が巻き込まれる、黒服の男との戦い。
二ホン独立運動に燃える学生・ワク―トが、
疑似二ホン語「ポリイ」と謎の少女・ルィナンに導かれる過程。
以上、大きく分けてこの3つのパートで描かれる作品。
この3つのパートは、どのパートも予想外の展開を見せますし、
おのおの連動しているので、交互に読むほど、
この作品の、独創的な世界に引き込まれます。
個人的にはワク―トの、模擬者(イミテーター)との戦いが、ハラハラして好き!
言語を駆使した戦いが、かっこいいです。
最後は怒涛の言語ラッシュ!度:★★★
ワク―トとヒッシャ―の世界では、ポリイを駆使した戦いが続き、
月世界では、SF戦争映画みたいな、正直かなり珍妙な戦闘が描かれます。
そしてクライマックスはというと、
「脚注弾」やら「落丁爆弾」やら「記号破壊砲」やら…
どう説明したらいいんだろう、これ?という武器が用いられ、
言語言語言語ラッシュ!
「言語をかなり個性的にとらえ独特に表現して、妄想世界のとんでもバトルを描き切った小説」
として、かなり印象に残る作品でした!
日本人ならではの、言語SF小説と言えるのかも?
個性派超展開SF作品が読みたい人は、ぜひ!